『恋』



中学の頃、私は恋をしていた。
初恋だった。
憧れが恋に変わるとか、ずっと一緒にいた人に気がついたらとか、そんなキラキラしたものじゃなかったけれど。敢えて言うなら、その人に戦友のような仲間意識やライバル意識を持っていたのだろう。気持ちの大半がそうであるならこれは恋とは言わないかも知れない。でも確かにあったんだ。それ以外のほんの少しが。

だから、私はこれを

恋と呼ぶ。



「何よ、なによ!もう知らない!!アンタなんて知らないわよ!!!!」

「諦めるの!?やめてよ、アンタの努力全部ぜんぶ、ぜんぶ!!無駄にするって言うの」

「ふざけないで!!……私、わたし、は」

「わたしは」

「キミが好きだった」

「努力して前を向く寶井が、好きだったんだ」

「諦めないで、よ」

「ねえ」

寶井が諦めたら、私は揺らいでしまう。私もいつか諦める日が来るのかと恐れてしまう。私の為の告白。心の弱さを認めたくなくてこのどうしようもない気持ちを何かにぶつけたくて、これを無理やり恋と呼んだ。好きなのだと、脳に錯覚させて自分の弱さを見なかった。……酷いな、私。目の前の寶井の驚いた顔に笑えてきて、口角を上げてみたけどみっともない顔になった自覚があった。さっきから視界が歪んでしょうがないな、嗚呼これ涙か。瞬きをすれば少しクリアになる視界に寶井のオレンジの瞳が飛び込んできて、そこに映る私が見えた。


今、この瞬間だけは寶井の世界には私だけだ。


ふとそれを理解する。少し早くなる脈も何も見えない。そういうことにした。これは恋と呼ぶ恋では無いもの、そうでなければいけない。寶井が口を開く。

「蕗谷、」

「いいよ。分かってるし、そもそも私言ったでしょ?」

「え?」

「好き”だった”って」

「……わかった。お前がそれでいいなら」

「うん」

「ありがとう」

「……うん」

私からの恋愛感情なんて欠片も感じていない癖に、私がキミに恋をしていないと知っている癖に、これを告白だと受け止めてくれる寶井はほんの少しだけかっこよく見えた。

心が痛むのは寶井に嘘をついたから。
──そうに決まっている。


『 恋 』