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種からはじめる [ 高橋一也 ]

鮮やかな色彩、大小さまざまなかたち、そして個性豊かな食感と味わい―古来より受け継がれ、守られてきた何百種もの野菜には、その土地の風土・文化、そして人の想いがつまっています。そこで今回お話を伺ったのは、古来種野菜の魅力を伝え、未来へとつなぐ、旅する八百屋「warmerwarmer」代表の高橋一也さん。種を守り伝える大切さと面白さについてききました。
※この記事は、2016年4月に公開されたインタビューです。


高橋一也(Kazuya Takahashi)
レストランの調理師、自然食品店の取締役を経て、現在は『warmerwarmer』代表。古来種野菜を広め、その種を守るためにトークショーやワークショップ、古来種ファーマーズマーケット「種市」などを開催。古来種野菜の対面販売「旅する八百屋」をはじめ、生産者と消費者のネットワークづくりに尽力している。
http://warmerwarmer.net/

古来種野菜との出会い

−−−20年前はレストランの調理師として働いていた高橋さん。おいしい無農薬野菜と出会い、その世界をもっと知りたいと自然食品店のバイヤーへ転職。全国の生産者を訪ね、野菜を仕入れてまわる日々を送っていました。

8年前、長崎の農家 岩崎政利さんが守り育てる「平家(へいけ)大根」に出会いました。かたちはてんでバラバラ、見るからに野性的な大根。聞くと、宮崎県の椎葉村という、本当に山奥の村で800年前から受け継がれてきた種だと。それをきっかけに、日本には110種以上の大根があること、その大半が高齢の農家さんによって栽培されていることを知りました。さらに、日本各地で代々受け継がれてきた素晴らしい野菜たちが、大量生産ができない、かたちが不ぞろいなどの理由で市場に扱ってもらえず、途絶えようとしている現状も見えてきて...。そうした野菜を守り伝えていくために、今の仕事をはじめたんです。

−−−大根ひとつとっても110種、なすだけで約70種もあると言われる古来種野菜(※1)。一方、巷のスーパーマーケットではおしなべて20種前後の一般的な野菜を扱うのが通常なのだそうです。

スーパーマーケットって一見、モノであふれているようでいて、どこに行っても大差ないですよね。例えば、全国各地で流通している大根と言えば「青首大根」のたった一種です。本来は、野菜も人間と同じようにいろんな色、かたちがあって、規格も味もバラバラ。そうした野菜の魅力を知るための、ワクワクする場所がもっと必要だと思いますね。だから僕は古来種野菜を扱うマーケット「種市」を開催したり、美術館の店頭で野菜を販売したり、さまざまな仕掛けをしています。

(※1)古来種野菜とは
固定種、在来種、自家採種など、昔から受け継がれてきた野菜の総称。品種改良された市場に出回るF1 種よりも、個性的な色やかたち、味が特徴。その数はゆうに1,000 種を超える。

古来種野菜との出会い

−−−実は、古来種野菜という名前は「古くから今に伝わる野菜と誰でもわかるように」と高橋さんが生んだ造語。そこには、たくさんの人に野菜の存在を知って、食べてほしいという願いがつまっています。

季節ごとに農家さんから届く段ボールの中身を見るのが毎回楽しみなんです。それぞれが持つストーリー、何百年も受け継がれている野菜たち...その豊かな価値をどうやったら伝えられるか、日々考えています。古来種野菜は素材の味がぎゅっとつまっているから、シンプルな調理でごちそうになるし。単純に、良い食材を求めたらここにたどり着いたんですよね。
古来種野菜は、市場に出回る野菜のたった1%と言われています。でも、そのたった1%に興味を持つような、感度の高い人が僕らの住む東京にはたくさんいます。そういう方々に食べてもらえたら、新しい価値観が生まれたり、種が残る道ができるんじゃないかと。1%でも希望と思って、伝え続けたいと思っています。そうして種を村でちゃんと守り受け継いで、次の世代の人たちがつくりたいって思ってくれたら...もともと、古来種野菜はそうやって長く受け継がれてきたものですから。1%の人が家庭の台所で古来種野菜を料理するだけで状況は確実に変わっていくと思うんです。

種を受け継ぎ、未来へ

−−−平家大根との出会いから数年、今では77人の生産者の方とお付き合いし、年間400種もの古来種野菜を取り扱う高橋さん。種のことを語ると尽きることがありません。

種っていうのは本来、人から人へ託されるもの。知り合いの農家さんの中には、おじいさんから『この種を絶やさないでね』とペットボトルのキャップ一杯分の種を受け継いで、守り育てている人がいます。みんなそうやって代々託されてきたんですね。だからこそ、村の人たちはそれを残していきたいし、なぜその種がその土地にやって来たのかということを失いたくない。とはいえ、若い人達が農業でご飯を食べていくのは大変な世の中。ちゃんとお金になって、経済が回るようにしないと、次の世代に受け継げません。だからこそ、次の世代につなぐ、仕組みをつくりたいと思っています。
農業ってつくる人、食べる人がいないと成り立たないんですよね。でも、今の古来種野菜は、つくる人がいるけれど食べる人がいないという状態。もしも食べる人がいればこの種もつながるし、村々で守り、受け継いでいけると思うんです。現代の市場では、効率やかたちの良いものが求められがちだけれども、そこの意識を変えていきたいと思っています。

出会いをつなぐ、野菜のちから

−−−古来種野菜を通じて、種をつなぎ、人をつないでいる高橋さん。トークイベントやワークショップなども積極的に開催しています。

都会にはワークショップで初めて野菜の種を見るような子どももたくさんいますが、楽しんで参加してくれています。野菜は苦い、辛い、えぐいなど、味がはっきりしているので苦手な子も多いですが、そうした感覚もとても大切。キュウリだって本来は苦い野菜で、昔は苦みを消すために味噌といっしょに食べていましたし、食べ合わせや下ごしらえによっておいしくいただくのが代々受け継がれてきた料理や暮らしの知恵です。現在は品種改良によって、甘くかたちの整った野菜が増えましたが、僕は、自分が嫌いだった苦いピーマンも残してあげたいと思っています。
また、世界中の食材、調味料が簡単に手に入る今だからこそ、子どもたちには特に「どのように選択していくのか」を伝えていきたいですね。意識して物を買う、食を選ぶという感覚を身に付けて、彼らが自分たちで選択できるようになって、その子たちがさらにおばあちゃん、おじいちゃんになった時にも、次の子どもたちに伝えられるようにと願っています。

野菜は日本が誇る文化そのものです。大根やカブは元々ヨーロッパから伝わった種ですが、こんなに種類があるのは日本だけ。シルクロードを通って持ち込まれた時に、種が根付いた土地の風と土、そして人々が、個性豊かな野菜を育んできたんです。振り返れば、私にとってかけがえのない出会いを連れてきてくれたのもこの野菜たち。自分たちが何かを求めてきたというよりも、野菜が僕たちと似たような感覚の人たちを引き寄せてくれたような気がします。古来種野菜を調べて訪ねてきてくれる人との新しい出会いが突然あったりする。年間計画も立てたことがないし、ホームページをつくって、レストランの店先や野外フェスティバルで販売をはじめたころには、こんな風に広がりをみせていくなんて予想だにしなかったです。
いつかはレストランなど実際に古来種野菜を食べてもらえる場をつくれたらと思っています。子どもたちの、そのまた子どもたちもこの野菜を味わえるように、人のつながり、未来へのつながりをつくっていきたいですね。

聞き手・テキスト:疋田祥世 撮影:水野聖二


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