名無し 1

 Ⅰ

 死にたいと言いながら、ぼくは今日も朝を迎えていた。
 手首は綺麗なままでどこにも傷ひとつなくて、鏡だって割れていなかった。乱雑に置かれた薬が机の上にあるわけでもなく、睡眠剤なんてのも見当たらない。ヘルプマークも、診断書もない。
 朝は嫌いだった。太陽は、至って健康なはずのぼくを祝福した。まるで先生のようだった。
 先生という人種は、ぼくがこの世で1番嫌いな生き物だ。先生というのは、正当化が大好きで、「普通」を求め、生徒全員をみな同じ花にした。ぼくには優れた才能があるわけでもなかったが、勉強は人並み以上、運動も苦手ではあったが人並みにはできた。字も絵も上手くはないが、見れないほどではない。そんな自分を先生視点で評価するならば「扱いやすい生徒」であるのだろうと思う。現に先生には好かれている方だったし、媚び売って生活していた。
 
 突然だが、ぼくは生きるのが苦手だ。
 全て人並みにできるぼくだが、 生きることだけはどうも難しかった。
 何よりぼくには病名がなかった。いやあるのかもしれないが、解明しに行くのも自分のプライドがそれを拒んだ。
 直接的な表現をしてしまえば、リストカットもオーバードーズもしていないし、不登校でも引きこもりでもなかった。自分の顔が大嫌いではあるが鏡を割ったことはない。勿論自殺を試みたこともなかった。周りにも笑顔をつくって接しているつもりなので、特に変な奴には見られていないはずだ。
 そんなぼくが生きづらいと思うのはなぜだろうか。
 こんなぼくだが、人の心理を探るのが好きで得意だ。だから自己分析もできる方ではある。けれど、自己分析ができたところで改善することはできなかった。だから生きづらいのかもしれない。

 これはぼくの自己紹介に過ぎない。至って平凡なぼくが毎日を送っていくなかで起きた出来事を語るのはこれからの話だ。

                                                             夕凛

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