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さらさら黒髪、逃避行

空が泣いている。静かに誰にも見つからないように、涙を流している。
カラオケボックス。歌うのを放棄されたあのガールズバンドの曲は、すこし気まずそう。

大好きな女の子が泣いている。涙を拭ってみたけど、悲しみまでは拭ってあげられなかった。この子が泣かなければならないことも、悲しみを拭ってあげられない自分にも、腹が立って、虚しくて、信じていない神様に、馬鹿野郎と言ってみた。

わたしの大好きな、女の子。だれよりも大事な、女の子。わたしは彼女が大好きだけど、彼女の悲しみを無かったことにはしてあげられない。わたしは彼女のことが大好きだけど、彼女の喜びそのものにはなってあげられない。
わたしの人生、しょうがないことばかりだけど、あなたに出会えたことは、ずっと、ずっと、いつまでも、光なんだよ。だから、どうか泣かないで。

わたしの大好きな女の子。いつもハグをしてくれるやさしい子。街中で、ハグをした。ハグをしたら、さっきまでの喧騒が、

パチンって

弾けて無くなった。世界で私たちしか居ないみたいになった。
あいつも、あいつも、あいつも、
消えてなくなって、私たちだけになった。
そうなればいいなと思った。

わたしのカラダは穴だらけで、注がれた愛情はサラサラすぐに消えていっちゃう。だけど、ハグしてくれたそのときだけは、穴が塞がって、わたしのカラダは愛情でいっぱいになるんだよ。わたしはここに居て、大好きなこの子も、ここに居るんだって思えるんだよ。

帰り道、大きな声で歌ってみた。歩くたびに消えていくハグの感覚が、寂しくてたまらなかったから。あの気まずそうにしていたガールズバンドの曲を、大きな声で歌ってみた。月は雲に隠れてよく見えなくて、上手く息が吸えなかった。空は、泣き疲れたのか眠っているようで、静かだった。空の寝息が、風になってわたしのカラダを掠めていった。

これから、たくさん悲しいことも、悔しいこともあるけれど、その度にハグをしよう。ハグをして、世界で私たちだけになって、全部から逃げちゃおう。月も星も明日も、よく見えなくて、迷っちゃっても、あなたがそこに居るって思えれば、わたしはそれでいいから。

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