バンクシーと難民キャンプのジョブズ

ヨーロッパの難民キャンプで何度かボランティアをしたことがある。

私は中学生とか高校生ではないので、日本でどこかの団体に登録して、斡旋してもらって誰かに連れて行ってもらって..という方法は不要だった。ひとり旅のついでに現場を訪れて話をした。

「日本からの旅行者なんだけど。人手が足りないっていうニュースを見聞きしたから手伝いに来たよ」。

スムーズに行くときもあれば時間がかかる時もあったが、最終的には受け入れてもらうことができた。

フランスの港街、カレー(Calais)でボランティアをした時もそうだった。市街地から一時間以上かけて海沿いにある難民キャンプへ足を伸ばした。

インフォメーションセンター、という手書きの案内が出ているプレハブ小屋に入り、そこで紙タバコをふかしているグループがいたので話しかけた(あとでフランス人だと分かった)。

「手伝いたいだけど、どうしたらいいかな」。

ヒッピーみたいなファッションをした一人が、
「キャンプ内を歩いて困ってそうな人を見つけて声をかけたらいいんじゃないか?」と極めてシンプルなことを言った。それもそうだなと心から納得した。全体を管理する団体があるわけでもないのだから。

ゴミの山から使えそうな木材を集めているアフガニスタン人や、NGOから配られる水をバケツリレーしている列に加わったりしてささやかな手伝いをした。

前日まで、私はベルリンに滞在していた。かつて秘密警察本部だったビルの近くにあるホームセンターで、夜間の道路工事の人が着るような蛍光のベストや手袋を買っていた。それを身につけてキャンプを歩いた。

難民とすれ違うたびに「サンキュー、ヘルパー」と声をかけられた。悪い気はしなかったが、自分の貢献などささやかなものなので少し申し訳なくもあった。

バンクシーの描いたスプレー画を目にしたのもその難民キャンプだった(写真)。


棄損されて見づらいが、スティーブ・ジョブズを描いている。

自身がシリア出身の父を持つジョブズをモチーフにすることで、越境者の持つ限りない可能性だとか、世界への有用性を表現した..という解釈も成り立つ。

社会に対してそれほど役に立ってないと見なされちゃう難民もたくさんいるだろうが(おれのようにな!普通市民だけど)、そんな人だって生きてていいよ、越境していいんだよ..と訴えてる作品ていう解釈は難しいように思う。甘い夢を見させないためかは分からないが。

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