「できない、やれない、私には無理」が当たり前だった私が「やってみよう」を選べるようになったきっかけ
「何事も挑戦することが大事」
至るところで耳にするこの言葉。
「時間は有限なんだからやりたい事があるならやってみたほうがいいよ」
そう言われてもきた。
でも昔から慎重派で「考えてから行動する」タイプの私は、失敗するリスクやお金の問題、そもそも自分にできるのかといったことをあれこれ考えてしまい、結局「やらない」という選択肢を選ぶことが度々あった。
そんな私が今まで数多く選んできた「やらない」という選択肢を「やってみよう」という選択肢に変えられるようになった出来事がある。
それは今から5年前、大学4年生の時に行ったベルギー旅行である。
***
そもそも私がベルギーに興味を持ったのは中学生の頃だった。きっかけは、たまたま見ていたテレビ番組でベルギーの特集がされていた事だった。
幼い頃からチョコレートが大好きだった私は、テレビで紹介されていた宝石のようにキラキラ光るチョコレートを見て、「私もこのチョコレートを食べてみたい」と思ったのである。(単純)
思い立ったが吉日。
早速本屋さんへ行きベルギーのガイドブックを手に取った。
ぱらぱらとページをめくると、テレビで見たカラフルなチョコレートの写真がこれでもか!と載っている。
ほかにも、ベルギーワッフルと呼ばれる長方形の大きなワッフル、太めのフライドポテトにマヨネーズをディップして食べる『フリット』など私の好みをそそる物がたくさんあって (食べものばかりなのはご愛嬌)
ベルギーへの気持ちがぐんっと高まるのを感じた。
これは、もう行くしかない。
そう思ったけれど、私には致命的な弱点があった。
飛行機が苦手。
今まで母の実家に帰省するために何十回と乗っていたのに、離陸する時の身体がふわっと浮く感じや、高度を下げていく時に耳が痛くなる感じがどうしても好きになれなかった。
また時おり風にあおられて機体がグラっと傾く感じも、なんだか心もとなくていつもそわそわしてしまう。
それに加えて元々三半規管が弱く、機内でご飯を食べることも本を読むこともできなかった私は、飛行機移動に耐えられる時間はせいぜい3時間が限界だなと思っていた。
そんな私が憧れたベルギー。
遠いと聞くし、きっと8時間くらいはかかるんだろうなと思いつつおそるおそる『トラベルインフォメーション』と書いてあるページを開いてみて絶望した。
飛行時間『約13時間』
当時の私の想像をはるかに超えていた。
正直8時間くらいなら、大人になったら平気になってるかもしれない♪と思っていたのだ。
が、甘かった。
淡い期待が一瞬で崩れ去っていくのを感じた。
「これは、行けない・・・」
そう思った私はガイドブックをそっと棚に戻し、本屋さんを後にした。
帰るころにはあれほど膨れ上がっていたベルギーへの気持ちは萎んでしまい、私には一生行けない国だろうなという悲しさだけが残っていた。
***
それから10年ほどの月日が経ち、私は大学4年生になっていた。
相変わらずベルギーには関心を持っていて、行く予定もないのに観光ガイドをいくつも購入し、たまに本棚から取り出しては「やっぱりこのチョコレートは素敵だなあ」なんてベルギーに想いを馳せていた。
もうこの頃には自分がベルギーに行けないという事は理解しきっていて、眺めて楽しむ事で「ベルギーへ行きたい欲」を満たそうとしていたのである。
そんなある日、1つ上の先輩から連絡があった。
「実はたまたま長期で休みが取れて、ヨーロッパに行こうと思ってるんだけど良かったら一緒にどう?」
思わぬ誘いだった。
先輩はアルバイト時代に良くしてもらっていた人で、当時は社会人1年目。
ご飯に行くことや1泊2日程度の旅行はあれど、長期の旅行の誘いを受けるなんて思ってもみなかったのだ。
当時私の周りでは、卒業旅行をどうするかという話がちらほら出ていて、まだ具体的なプランを決めていなかった私は「行きましょう!!」と半ば食い気味でその誘いに乗った。
そしてその勢いで「ベルギーに行ってみたいなあ、って思ってるんです」と言ってみた。
この時、無理だと諦めているはずの国の名前を自分がぽんっと口にしたことにびっくりしたのだが、先輩の返事が「ほんと!?実は私も行きたいと思ってた!!!」だったのでさらにびっくりした。
だって今まで友達と「もし旅行に行くならどの国に行きたい?」という話の中で「ベルギー」と口にしても「あーチョコの国だよねー」くらいの反応しかされた事がないのに、「行きたい」という気持ちが一致するなんて。
これは、もしや運命・・・!!!!!
そしてその場のテンションであれよあれよという間に予約までしてしまい、諦め続けていたベルギー行きがさくっと実現することになったのである。
けれど同時に「13時間のフライト・・・大丈夫かなあ」という不安が押し寄せてきたのも事実だった。
***
いよいよフライト当日。
今までに乗ったことのないような大きな飛行機に乗り込む。
この飛行機が離陸したら13時間は降りられない。
分かってはいたものの落ちつかず、そわそわしていた。
するとそんな私の様子に気付いた先輩が、気を遣って通路側のシートを譲ってくれた。ありがたいなと思いつつそのシートに座ったもののやはり落ち着かない。機内を何度も見回し、あの白人さんイケメンだなあ・・・なんて思いながらずっとそわそわしていた。
そうこうしている内にゆっくりと機体が動き始める。
お守り代わりの酔い止めを飲み込みいざ、13時間の空の旅がスタートした。
「飛んでしまえばなるようになる」
そう聞いていたけれど現実には「飛んでしまえばどうすることもできない」ことを感じた。
当たり前だがどれだけ降りたくても目的地につくまでは降りられない。であればいかに気を紛らわすか、だ。
私がフライト中にしたことは以下の5つ。
・2時間に1回は行きたくなくてもトイレに行く。
・席にいる間はひたすら音楽を聞き続ける。
・映画は画面に集中し過ぎると気分が悪くなるので流し見程度に見る
・機内食は味に集中し、揺れに動揺しないようにする
・たまに映る現在の飛行場所を指す地図を見ながらカウントダウンをする
この繰り返しで気を紛らわせた。よくご飯の時だけ起きてあとは爆睡なんて人の話を聞くが、そんな余裕はない。とにかく気を紛らわせること13時間。
オランダに到着。(日本からベルギーへの直行便はない)
この日を含め3日間はオランダ観光を楽しんだ。
(オランダもとっても素敵な国だった・・・!けどここでは割愛)
そしていよいよベルギーへ。
ベルギーへは「タリス」という特急に乗って向かう。
電車で国境を、越える。
それだけで気持ちがすごく高まるのを感じた。
電車に揺られること2時間。無事にベルギーに到着した。
深呼吸をしてとんっと降り立つ。
すると一瞬でぶわああああっと嬉しさがこみ上げてきた。
10年もの間憧れ続けてきた国。
だけど私には行けないと思って諦めていた国。
私は今、その国にやって来たんだ・・・!
そのことが嬉しすぎて、降り立っただけで胸がいっぱいになった。
けれど喜んだのもつかの間、困惑する出来事が待ち受けていた。
「ホテルにたどり着かない」
明日はみっちりスケジュールを組んでいるし、早めにホテルに向かおうと意気揚々と歩き出したものの、歩けども歩けども目的のホテルらしきものが見えてこなかった。
私も先輩もヨーロッパに行くのは初めてということもあって、なるべく大通り近くのホテルにする、日本人の口コミ評価が多いところにする・・・などホテル選びは妥協せずにしたつもりだった。
けれど地図通りの道を歩いてるはずなのに一向に目的のホテルにたどり着かない。
視界に入るのは同じような建物ばかりで、気付けば自分達が今どこにいるのか分からなくなってしまっていた。
やむを得ず、道を歩く人に声をかけてみる。
「え、えくすきゅーずみー?」
地図を見せながらホテルの場所を聞いてみるが、「Sorry」の一言。
ならば!と、この辺に住んでそうな顔の人をめがけ声をかけてみる。けれど返ってくる返事は「ごめんなさい」「知らない」ばかり。
挙げ句の果てには「No Engish」と言われる。
これはやばいと思った。
ベルギーに行くにあたり少し心配していたのが公用語は「フランス語・オランダ語・ドイツ語」であり、英語は全く分からないという人も多いという情報だった。
それをこの聞き込みで痛感した。ホテルどころか言葉が通じないのでは話にならない。
さらに追い打ちをかけたのが、どこまでも続く石畳の道である。
ただでさえ重く、持ち運びがしにくいキャリーケースを持ってを歩くのは大変で、少し移動しただけでも息があがってしまう程だった。
そうして気付けば30分以上歩き回っていた。ふと空を見上げると、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲が広がっていて、そういえば天気予報も雨マークになってたなあ・・・と思い出す。
なんとか雨が降る前に・・・!と思いながら、近くを通った優しそうな中年夫婦(たぶん)に声をかけた。
「Are you know this hotel?」
(この頃には多少ドヤ顔で聞けるようになっていた)
夫婦は揃ってガイドブックを覗き込む。そして首を横に振った。
「No, I’m sorry」
ああ、この人たちもダメか・・・
落胆を隠しきれず、少しぎこちない笑顔で「Thank you」と言って立ち去ろうとすると、女性が何かを聞きたげな顔で「Where are you from?」と笑顔で尋ねてきた。
正直質問をされるとは思っていなかったので驚きながらも「from japan」と答えてみた。
すると「where 」と聞かれた(気がした)ので、おそるおそる「Osaka」と答えてみた。
すると女性がぱああああっと笑顔になり、隣の男性と目を合わせながら
「びっくり!!!!大阪なの!!!?実は私たち来月大阪に行くの。今とっても楽しみにしてて。たこ焼き!道頓堀!知ってるわよーーーー!」
と、こんな感じのことを言ってくれたのである。
「え、この人大阪行くって言ってますよね・・・!?」
自分のヒアリング能力に自信が無さすぎて思わず先輩に確認すると、先輩が嬉しそうに「うん!私にもそう聞こえた!」というのでうわあ、本当なんだ!と確信した。と同時にじわじわと嬉しさがこみ上げてきた。
正直「Osaka」と言ったら「あ、大阪ね。知ってる知ってる〜〜」くらいの返事が来ると思っていたので、まさか「大阪に行く」と言われるなんて夢にも思わなかったのだ。
と、私がひとしきり驚いたり喜んだりしている間にも、大阪城がどうだとかなんだか大阪の魅力を熱く語ってくれていて、大阪をたくさん調べていること、そして来月の旅行をとっても楽しみにしていることが伝わってきた。
その熱量がとても嬉しくて、どうにかしてその喜びを伝えたい!と思ったけれど自分の知ってる英語ではうまく伝えることができなくて、必死のジェスチャーと笑顔で表現するのが精一杯だった。
それがちょっぴりもどかしかったけれど、
「あなたたちに会えてよかった。
はやくホテルが見つかることを願っているわ」
そう言って手を振る2人を見て、迷子になってよかったなあ、とちょっぴり思ったのであった。
結局ホテルにはそれから20分ほどかかったものの、雨が降る前にたどり着くことができた。
それからベルギーでは憧れていた本場のチョコレートを食べまくり、ワッフルやフリットも堪能した。そしてグランプラス(有名な広場)で写真を撮り、ブルージュという街でのんびりお散歩を楽しむなど、やりたかったことを思う存分満喫することができた。
私は飛行機が苦手だ。
その苦手意識は今でも変わらない。
けれど一歩踏み出したからこそ出会えた人、出会えた景色があり、ガイドブックには載っていない胸の高鳴りや心が躍る瞬間に出会えた。
そしてこの経験から今までできないと思っていたことが「もしかしたら出来るかも」に変わっていた。
きっとこの先、やりたいと思うことがあっても「難しいかも」「うまくいかなかったらどうしよう」と尻込みしてしまう事があるかもしれない。
でもその度にきっと、私はこの経験を思い出す。
そしてビビりながらも「やってみよう」という選択肢を選んでいくのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?