功労者

学生時代アルバイトしていたコーヒー屋さんにすごく真面目でいい子がいた。

早朝から開店するお店の鍵を開けるのは本来は店長かオーナーの仕事だけど絶対遅刻しないその子は鍵を渡されオープン作業を任されていた。アルバイトはほとんど大学生で授業の合間に入るのでよく会う子とそうでない子に自然と分かれその子と私はすれ違い気味だった。でも、その子は常連さんに人気な真面目な子で誰しもが認めていた看板娘だった。

ある日出勤してキッチンに入るとその子が泣きながらサンドイッチを作っていた。クレーマーに嫌なことでも言われたのかなと思いながらも何も触れず、その子は私と入れ替わりで退勤した。キッチンからオーナーも去っていき私ともう一人の大学生、ふたりきりになった。「まただよ」と彼女は言った。?。オーナーにその子はよく泣かされているらしく、またかぁと彼女は肩を落とす。???。「オーナーのお気に入りじゃないの?」かわいいし明るいし少し幼さもあり何より仕事に対して真面目でこの店の一番の功労者であった。「オーナーは嫌ってる」???なぜ?「何でなの」「わかんない」「ちなみにさっきは何があったの?」「キッチンの中で邪魔だとかオーナーが言うんだよ、言い方が怖いんだもん」仕事はすごく出来る子できびきび動く子だ。

理不尽なことされて泣いてしまった次の日も休むことなくその子は寝坊したオーナーや店長の代わりに店を開ける。ふてくされず笑顔で明るく真面目に働く。そんなんだから舐められるんだと誰かが言った。

その子がオーナーによく泣かされていることは私以外、結構知っていた。私が知らなかったのはたまたまだったようだ。大学生の女の子達の集まりで仕事中に私語でついつい盛り上がってしまうこともあるけどその子はいつも真面目一辺倒で少し周りが面白く思っていなかったこともその時知った。お客さんからの人気で嫉妬はされているとは思っていたけど…でもオーナーにとってはこんないいアルバイトが入ってきてくれて助かる!絶対辞めないでほしい優秀なアルバイトであるはずだ。

「家のこともあるのかなぁ」「それもあるかもね」その子の家は母子家庭でよくお母様が娘がお世話になっていますと挨拶に来てくれた。客としてコーヒーを飲みながら元気に働く娘を微笑みながら見守っている。とてもとても優しい雰囲気の人だった。タイミングを見て挨拶して下さったり状況によっては会釈だけで帰られたり、すごくわきまえている感じ。でも、娘に酷いことしたらふざけるなって抗議する父親の不在にオーナーは漬け込んでいるように思えた。女手ひとつで育ててくれているお母さんにバイト先で嫌なことがあったとは言わず一人で飲み込んで抱えてしまいそうなその子の性格にオーナーは漬け込んでいるように思えた。ぎゃーぎゃー騒ぎたてるタイプの子にはオーナーは丁寧に接していたし。

コーヒー屋さん以外のコミュニティでも功労者なのに嫌な思いをするとか実は多いものだと知った。嫉妬だけでは説明つかない何かがあると思うのです。

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