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ドアの向こうへ vol.25

父へ連絡をした。
「あ、お父さん、私、今大丈夫?」
「おぉ、由美子、大丈夫だよ、どうした何かあったか?」
「あったよ、へへ・・・今日から、私、二つ目になったよ」
ちょっと、間があって
「そうか、そうか、良かったな、由美子。
二つ目に・・・それはすごいな、お祝いしなきゃね」
「ありがとう、お父さん、来週の日曜日は、お休みだから、帰るね」
「そうなのか、それは、楽しみだ、待っているからね」
「ありがとう、お昼前には落語カフェへ直接行くね」
「わかった、気を付けてな、じゃあ来週に」
「はーい、お父さんもね、じゃ来週に」

 二つ目になると、単独で仕事をするのも可能になる。
父のやっている落語カフェで、噺をすることもできる。
今から、とても、ワクワクしてきた。
 そうだ、美樹さんへも連絡してみよっと。
彼女は、都内へ研修に来たときは、必ずと言って良いほど、
寄席へ来てくれていた。

「・・・・あ、美樹さん、由美子です、今、お話しても、大丈夫ですか」
「あら、こんにちは、由美子さん大丈夫よ」
「ありがとうございます、実は、私、二つ目になりました」
「えぇ?そう、それはすごい、おめでとうございます!」
「ありがとうございます、自分でも驚いています。まだまだ先だと
思っていたから」
「そんなことはないわよ、由美子さんの噺を観て聴いてきたから、当然だと思うよ」

「ありがとうございます。これからも、精進して咄家の道を極めたいと思います」
「流石だわね、実るほど頭が下がる稲穂かなだわね、お父様もお喜びでしょ、お祝いしなきゃね」
「父へも連絡したら、自分の事のように、とても喜んでくれました、それで、来週の日曜日に父の落語カフェで、お祝いをしてくれる事になって、美樹さん、ご都合がよろしければ、いらっしゃいませんか?」
「あら、いいわね、えっと・・・・来週の日曜日ね・・・・大丈夫、午後からは空いてるわ」
「良かった、父も喜びます。では、来週の日曜日に、ありがとうございました」


美樹は電話を切ってから、
「由美子さん、すごいわ・・・着実に自分の道を進んでいるわね」と呟いた。
私もあともうひと踏ん張りだわ・・・
開設まであと1年・・・まだ事務机など自分1人分しか置いていないがらんとした事務所でこれからのことを考えている。

 この支援センターのはS市駅の近くのビルの1階にある。裏手には公園もある静かな通りに位置している物件を選んだ。元はレンタカー会社の事務所だったらしいが、最近は長期に渡り借り手がなかったようだ。
西口側の駅ターミナルビル地域の開発によって、西口側は破竹の勢いで商業地区や居住区などが利便性良くデザインされニュータウンになった。レンタカー会社もその駅ターミナルビルへ移転したらしい。

 相談員のスタッフメンバーも重要なポイントだ。私が引きこもっていろいろと相談していた時に的確で新味になってくれた市職員の山科徹氏。彼は大学で心理学を専攻しメンタルケアカウンセラーのライセンスもある。私の始める支援センターへ顧問という立場で勤務を依頼した。この支援センターは主に30代以上の引きこもり者の就職支援と脱却を目指している。それに伴い公的機関の支援センターと連携して運営することにも決まっている。

 准相談員としてあと、もう2人、相談員が欲しい・・・民間の支援センターやメンタルケアカウンセラーの登録団体へも問い合わせ、面談したりしているがどうもピンと来ない。とその時携帯電話が鳴った。
【喫茶ひまわり】だった。
「はい、美樹です」
「あーこんにちは美樹さん、今電話大丈夫?」
「こんにちは、マスター、はい大丈夫です」
「そうか、よかった、実は美味しいコーヒー豆が入って来たからどうかなと思って・・・」
「そうですか、ありがとうございます、これから伺います。えぇ・・・事務所にいたので」そういって電話を切り、すぐに喫茶ひまわりへ向かった。
そうだ、マスター・・・どうかな?相談員メンバーに・・・ぴったりなような気がする・・・などと考えているうちにもう喫茶ひまわりへ着いた。ドアチャイムを響かせてドアを開けた。

《続く》


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