ゆかりある日記 その20

ゆかりさんと日常

仕事から帰る前にスーパーへ寄った。食材を買う用はなかったが、これから来る台風がとても怖くて、水とガス缶とカセットコンロを買う。レジでならんでいる間、買い物カゴをじろじろと見られた。完全に備えようとしている、と思われているだろう。
帰宅してすぐご飯を炊く。模様替えをしたので、部屋が広い。一度転がって手に入れたカセットコンロを見る。備えあれば憂いなし。
ご飯を炊いて、すぐに晩御飯の準備をする。
昨日の塩サバがまだあるので、スマホで塩サバと検索すると大量にレシピが出てくる。その中で一番楽そうなものを選んで、指示に従っていくと、30分寝かせるとあり、なんだよ、寝かせるなよ、睡眠不足で行けよと準備を終えて、お風呂に入る。鏡に映る自分がどんどん膨らんでいるような気がする。気がするだけなので気にしない。お風呂から出て全裸でスマホを見ると、大量の迷惑メールの中にゆかりさんからの帰るメッセージが来ていたので、すぐに返信して部屋着に着替えて、寝かせた塩サバに片栗粉をまぶして多めの油で揚げるというか焼く。その間にゆかりさんから何時頃駅に到着というメッセージを見て時間を逆算。焼き終わった塩サバをお皿に装い、届いていた迷惑メールは全て削除。3億円をくれるというメッセージはどんどん消えていく。本当だったらどうしよう。
タオルで頭をかきむしるように拭いて外に出る。ドアを開けた瞬間に涼しい風。夜はもう秋になっている。
さっきまで明るい部屋の中にいたせいで、帰ってくるときより暗く感じる道を歩く。すれ違う人はこれから帰る人だろう。時々スマホで話している声や、恋人同士のような甘い声を拾うことができるが、今日はあまりすれ違わない。
ゆかりさんを迎える。今日はお菓子が買いたくてコンビニで待ち合わせ。
迎えに行く帰り道の中、ゆかりさんは今日の出来事をダイジェストで教えてくれる。大抵はすぐに忘れてしまう話。聞いている時だけ覚えている話をしている間に到着。
手を洗って料理の続き。
ナスを洗って切る。ゆかりさんを待っている間、ナスの煮浸しの作り方をチェックしていた。油をひいて焼いている間に、塩サバにかけるあんかけの調味料を鍋に投入しているとナスが暴れだす。急いでナスの煮浸し用の調味料を入れると、あんかけがどろどろになっていく。
同時作業ができない。部屋着に着替えたゆかりさんが今日の出来事の続きを話し出す。
同時作業ができない。ただもうすぐ終わる。パニックになりながらナスの煮浸しと塩サバの竜田揚げの完成させる。
料理をしないで30年だったのに、僕の帰りが早い時は料理を作り始めて2年経つ。まだ包丁を早く動かすことはできない。慎重にやっているから指を切ったことはまだない。
食べ終わってゆかりさんが食器を洗う。作っていない人が食器を洗うのが暗黙のルールになっている。作ってくれた感謝の気持ちをスポンジに込める。
食器を洗い終えたゆかりさんは冷蔵庫からマスカットを出す。僕はスマホを見ながら「皮も食べられるやつ?」と聞く。
「うん」
マスカットを後ろで洗っている音が聞こえる。

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