コロナショックを上回るSaaS企業
企業データが使えるノートでは、SaaS企業のKPIをデータベース化し、公開を予定しています。
今回はその対象となる国内SaaS上場企業各社のコロナショック前後の株価推移を検証します。
Zoomが爆上げ、和製SaaSはどうか?
米国市場では、企業向けのビデオ会議システムを手掛けるZoom社の株価上昇が止まりません。
上場後初の決算公表で前年比88%増加という驚異的な成長という背景がありますが、新型コロナウイルスの影響による世界的なリモートワーク導入の恩恵を受けていることが大きな要因といえます。
日本でも働き方改革の波やリモートワーク推奨の流れを受け、コロナショックの影響下においてもSaaS企業を積極的に評価する意見を目にします。
果たして和製SaaSは投資家からどう評価を受けているのでしょうか。
「SaaSのためのSaaS」企業1社のみが株価をあげる
上の表は2020年初から先週末(2020/3/19)までの株価騰落率です。
* 出所: Yahoo!ファイナンスを基に筆者作成
全般としては、TOPIXが25%の下落に対し、東証マザーズ指数は38%の下落と新興市場リスクの高さが嫌気されされています。
SaaSの多くはマザース市場に所属しており、騰落率の基準感としてはこの38%と考えます。
その中でただ1社株価の絶対値でも年初比30%、マザース指数を68%アウトパフォームするSaaS企業があります。それはHENNGEです。
HENNGEとは?
HENNGEはクラウド経由でID認証、パスワード管理、シングルサインオン、アクセス制御などの機能を提供し、"IDaaS(Identity as a Service)"と呼ばれる分野の企業です。
G suiteやSlack、Zoomといったクラウド・SaaSサービスの利用は業務効率を後押しする一方で、ログインやID管理の煩雑さ、情報漏洩のリスクが高まることがデメリットとしてあげられます。
HENNGEが提供する「HENNGE One」は複数のクラウドサービスへのシングルサインオンができ、SaaSサービスの複数利用にあたっても利便性と安全性を担保できるシステムです。
同社については決算説明会資料中でのSaaS KPI公表が他社よりも積極的に開示されており、売り上げの90%以上を占めるHENNGE Oneの平均月次解約率が0.13%と高いユーザー定着をしていることが伺えます。
SaaSシフトが進むことでよりニーズが高まる同社に対し、熱い視線が注がれています。
マザーズ指数をアウトパフォームするのはSaaS大型株
株価の騰落率はマイナスとなりますが、フリー、Sansan、マネーフォワード、サイボウズといったSaaS大型株はマザーズ指数と比較すると高い株価をみせています。
いずれの企業も足元で時価総額1,000億円を越えており、(サイボウズは700億円)個別事業はもとより、SaaSというテーマに対し、投資規模に合う企業が株を買われている印象があります。
また、これらの企業が提供するサービスはユーザーの業界問わないをホリゾンタルSaaS(業界横断型SaaS)ですので、業界動向に関わらず企業全体の業務効率化が進めば導入が見込まれる期待を受けています。
向かい風を受けるSaaS株
SaaSサービスの中でマザース指数をアンダーパフォームした企業は、ユーザベース、ウォンテッドリー、ロジザード、ユーザーローカルとなります。
(リンクアンドモチベーションについてはSaaS比率が低いため割愛)
ユーザベースについては、NewsPicksやQuartzといったメディアビジネスが2019年度ベースでは56.8%の割合を占めるため、現時点においては純粋なSaaS企業としての見られ方が難しいのではないかと推察しています。(こちらの記事で触れていますが、SaaSビジネス自体はARR 57億円程度あります)
ウォンテッドリーについては、景気後退による採用抑制の影響を強く受ける人材領域として株価下落につながっているのではないでしょうか。(パーソル、パソナ、エン・ジャパン、ディップなども同様に年初比50%程度の下落)
個人投資家比率が高い、ないしは時価総額が比較的低い企業の株価について直接の言及は難しいものの、特定の業界の影響を大きく受けるサービスやマーケティングなどの攻めの領域を支援するサービスについては少なからず逆風をうけるものと考えられます。
本源的価値を持つプロダクトは花開くチャンス
筆者個人の体験談として、今回のコロナショックは業務効率化を推進するSaaS企業にとってチャンスであると考えています。
私自身は2008年のリーマンショック時に創業当初のユーザベース(創業時はSPEEDAというSaaSプロダクトのみ提供)と関わりがありました。
今回のコロナショックと異なり、当時は金融への信用不安に端を発した恐慌であったため、銀行、証券、保険業種の企業は今とは比べ物にならないほどのコスト削減を行っていました。
その中でもユーザーニーズにしっかりと寄り添い、人員削減を逆手に取って金融機関の業務効率化を進めたのがSPEEDAです。
以下のTweetは当時への回顧録ですが、不況下であっても、本源的な価値を持つプロダクトは、危機もチャンスに変えることを身をもって学びました。
様々な業種において厳しい局面を迎えつつありますが、この危機を乗り越えて、大きく花開くSaaS企業はきっとあります。
企業データを使えるノートでは、そんなSaaS企業を後押しするべく、コンテンツ、データの提供を行っていきます。