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【カケハシ】バーティカルSaaSトップランナー 大型資金調達の背景を独占取材

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新年に入って間もない1月11日、調剤薬局向けSaaSを提供するカケハシはシリーズCラウンドの1stクローズとして76億円の資金調達をリリースした。

「スタートアップ冬の時代」と呼ばれる2022年以降、それまでにハイバリュエーションをつけていた企業がダウンラウンドでの調達も余儀なくされるケースが増えた。

その中で、着実に前進を見せた今回のリリースは、ポジティブな驚きをもって受け止められた。

バーティカルSaaSスタートアップとして国内最大規模の資金調達の背景には、同社の緻密な拡大戦略がある。

調剤薬局業界のみならず、特定業界向けSaaSにとってのベンチマークとなり得るカケハシのこれまでの歩み、そして、資金調達の背景や今後の展望をカケハシ代表取締役CEOの中川氏に聞いた。

中川貴史 氏 | カケハシ代表取締役CEO。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。製造・ハイテク産業分野の調達・製造・開発の最適化、企業買収・買収後統合マネジメントを専門として全社変革プロジェクトに携わる。2015年10月マッキンゼーシカゴオフィスから帰国し、2016年3月にカケハシを創業。

*これまでも企業データが使えるノートでは、カケハシ社への取材を行っております。事業の概観などは以下の記事をご覧ください。


SaaSスタートアップとしての評価はトップ水準に

今回、カケハシが公表した資金調達の概要は以下の通りだ。

スタートアップのデータベースを提供するINITIALの推計では、調達後評価が407億円となっている。

市場関係者からは「ARRマルチプル10倍前後で調達が行われており、最近の資本市場を考えると極めて高いバリュエーションで調達がなされている(VCキャピタリスト)」と驚きの声も聞かれる。

最新の企業価値評価額を基に企業データが使えるノートが集計をする「SaaSスタートアップデータ」から、バーティカルSaaSスタートアップのバリュエーションランキングは以下の通りとなった。

* 評価額上の日付は調達時点

首位は、昨年9月に累計総額122億円の調達を行ったアンドパッドであり、今回のカケハシ同様に、評価額・調達額の大きさに注目が集まった。

この1年、バーティカルSaaS領域では、DeNAからの出資を受けたアルムなどをはじめ、ホリゾンタルSaaSを凌ぐ規模・評価での案件が続き、株式市場の不況を感じさせないリリースが続いている。

今回のカケハシの資金調達は、バーティカルSaaSが決して「小さい市場」でないことを証明しつつある。

バーティカルSaaSは従来、業界を問わないホリゾンタルSaaSに比べて顧客数が限定的であることから、TAM(Total Addressable Market)の大きさやビジネス拡大に懐疑的な見方も多かった。

加えて、調剤薬局業界自体は、6万店規模ではあるものの、単一店舗の割合も多い業種であり、日本の産業に占める規模は製造業・建設・不動産などに比べれば決して大きくない。

* 市場規模マップより

そのような事業環境であって、「1年で2.7倍成長」という驚異的な成長スピードをいかに獲得してきたのだろうか。

調剤薬局業界は寡占度の低い分散型市場

まずは、カケハシが対象とする調剤薬局業界が取り巻く、市場環境について触れたい。

厚生労働省のレポートによると、現在の国内調剤薬局数は6.1万店舗となっており、近年はほぼ横ばいの水準を保っている。

店舗数の割合は、10店舗以下の事業者が過半を占め、個店の割合も27%を占める。一方で大規模事業者が占める割合は20%と、大手の寡占度は低い分散型の市場となっている。

調剤薬局では、患者に対する処方薬の履歴(薬歴)を記録する必要があり、SIerなどが提供するオンプレミス型のシステムが、長年多く利用されてきた。

業界においては「8割程度は電子薬歴システムを利用している(中川氏)」状況ではあるものの、旧来型のシステムでは対応可能範囲が限定的であるといえる。

多店舗展開における患者データの共有や、改正薬機法を受けた患者フォローの必要性などDX化を進めていく中で、クラウド型のプロダクトなどに乗り換えていくニーズが存在する。

高齢化に伴う社会保障費の増加は、国にとっても喫緊の課題であり、保険証とマイナンバーの統合など、今後起こり得る政策変化などに対しても柔軟にITシステムを構築する必要性が高い。

カケハシが提供するクラウド型電子薬歴システム「Musubi」は、薬価の低下や人材不足といった経営課題に取り組む中小規模事業者に加え、DX化を加速している大手薬局チェーンなどからも支持を集め、2017年のサービスローンチから6年で業界シェアの11%に達する勢いを見せている。

ここからは、中川氏に急成長の要因や資金調達の裏側を聞いていく。

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