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【識者に聞く】SaaSパートナー戦略の知られざるセオリー

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SaaS企業にとってパートナービジネスはもはや欠かすことのできない営業戦略となっている。

The Model型の直販体制を築いてきたSaaS企業各社も、パートナープログラムの策定や代理店リレーションチームの立ち上げのリリースが連日見受けられる。

マネーフォワードは法人向け「マネーフォワードクラウド」のパートナービジネス専任チームを強化し、立ち上げから4年ほどで20名の人員規模を見据えている。

従来よりパートナー施策を中心に営業を展開し、100社以上の企業とパートナー契約を結ぶAI insideは、パートナー各社を表彰する「AI inside Partner Summit 2022」を開催し、一層のリレーションの強化に余念がない。

このようなSaaSベンダー側の取り組みに対し、パートナー施策を支援する企業も増え始めている。

各種コンサルティングサービスを提供する才流はSaaSの代理店戦略支援サービスの提供を6月から開始。代理店などパートナー企業との共同営業を支援するSaaS「ハイウェイ」はDNX Venturesなどからシードラウンドにて1.2億円の資金調達を行うなど、システム面からのサポートを行う企業も出始めている。

本記事の共同企画を行うパートナーサクセス社も「Partner Success Summit 2022 Summer」を開催するなど、SaaS企業間におけるパートナービジネスのナレッジ共有やコミュニティ化を推し進めている。

企業データが使えるノートでは、このような関心の高まりに対し、今年3月「【保存版】SaaSパートナー施策攻略のための10の質問」をリリースした。

今回の記事では、同分野に対し深い知見を持つパートナーサクセス社秋國氏へのインタビューを行い「知られざるパートナー施策のセオリー」を聞いた。

記事の後半では、実際にSaaS事業に取り組む起業家からの質問・相談を受け、パートナービジネス展開を行う上でのリアルなノウハウを明らかにしている。

秋國 史裕 | パートナーサクセス株式会社 執行役員COO 
新卒で不動産業界のマンションデベロッパー、その後、ITセキュリティ系のソフトウェアベンダーに就職し、10年間、パートナービジネスに携わる。2018年からChatworkにてパートナービジネスの立ち上げを行う。2021年11月よりパートナーサクセス社へ参画。執行役員COOに就任。

知られざるSaaSパートナー施策セオリー


—―― SaaSビジネスにおけるパートナー施策を有効に進める上で「一般にはあまり知られていない」セオリーとは何でしょうか。

秋國氏:これまでSaaS企業の営業戦略と言えば直販体制を主軸においた「The Model」型の分業や体系化が進化を遂げてきました。

これに伴い、SaaS企業で働く個人のスキルセットもインサイドセールスやフィールドセールスなど限られた分野で最大限の成果を出せることが求められていました。

一方で、パートナービジネスにおけるスキルやマインドセットはThe Model型の展開とは対称的で、その役割は多岐に渡ります。そのため、SaaSビジネスにおける営業実績があるメンバーであっても直ぐにパートナービジネスで成果を挙げられるかは話が別です。

パートナーの新規開拓や共同プロモーション施策の立案、勉強会の設定など「オールラウンダー」としてのプレイング力が重要となります。

さらに、これらのマインドセットやスキルに加えて、実は属人的な「人脈」は重要な鍵です。

そもそも論にはなりますが、パートナービジネスの効果を高めるのであれば、人脈のあるパートナービジネス経験者を採用することも立ち上げフェーズには重要です。あまり明文化されることはありませんが、経験者のスキルを活かせるか否かで初速は全く違います。

—――  パートナービジネスの立ち上げに「人脈」が重要となるのはなぜでしょうか。

秋國氏:近年、多くのSaaSプロダクトが勃興してきた中で際立って差別化されたプロダクトは少なく、それぞれの領域でレッドオーシャン化しつつあります。

類似機能を持ったプロダクトが複数ある場合、パートナーが全てのプロダクトに対して正確な評価をすることは難しくなっています。

そのため、ある機能を持った製品についてパートナーがエンドユーザーから相談を受けた際などには、いくつかのサービスから悩み選択することとなります。その際に判断材料の要となるのがベンダーの人的なサポートです。

* パートナービジネスは製品力に加え人的なサポートが重要になる

「SaaSベンダーA社の営業担当はすごい頑張ってくれるし、まめに連絡を取ってくれるから、まず最初に声をかけて相談する」とか「関係性が薄いが、何社かに連絡をとって一番にレスポンスがあった担当者に話を聞く」といったことは良くみられます。

多くの顧客に対し、さまざまな製品を提案しなければいけないパートナーに対し、ベンダー側がきめ細かいフォローが出来ると「その人に相談したい」という状況が生まれ、製品だけではない競争力が生まれます。

私は以前別のSaaS企業でパートナービジネスを担当していましたが、転職の際には、今後も繋がる可能性のあるパートナーに対し挨拶回りは欠かしませんでした。

パートナー間でも「誰々がどこに移った」といった情報が共有されています。

—―― 優れた担当者がいることはパートナービジネスのセオリーということでしょうか。

秋國氏:パートナーセールスを成功させた企業の立ち上げ初期に共有していたことは、

① 優れたプロダクトでインバウンドの問い合わせがたくさんある
② コネクションのあるパートナービジネス経験者を採用できている

の2点が挙げられます。

あるSaaS企業の売上が好調な原因を調べてみると、人脈のあるパートナーセールス経験者が他社から転職してきていたというケースが多分にあります。

SaaSは積み上げ型のビジネスと思われがちですが、アライアンスを上手く組むことができると、非連続成長を遂げることができるポテンシャルがあります。

大塚商会やリコージャパンのような大手パートナーとの契約が1件決まり、数年後の売上が飛躍的に伸びるケースがある。その経験をもったパートナービジネス経験者は実は非常に貴重なのです。

—――  パートナービジネス初期立ち上げには人的な要素が大きいことはわかりました。一方で、プロダクトの売りやすさや機能が重要ではないかと考えてしまいます。

秋國氏:もちろん、人への依存度が低いケースもあります。

例えば、コロナ禍初期の在宅ワークが急速に進んだ際のビデオ通話システムや改正電子帳簿保存法に関連する請求書システムなど、プロダクトのニーズが非常に高いケースです。

この場合、パートナーは売らないことが機会損失となるため、人的な繋がり以上に、ダイレクトにニーズに応えられるプロダクトであるかが重要です。

一方で、商品力のあるベンダーだとしても、「あの会社の担当者1週間連絡放置してて、全然連絡くれない」とか「動きが遅く、案件のクロージングに時間がかかるから、もっと決まるとこと相談しよう」と人的なサポートの薄さがボトルネックになることもあります。

あとは、細かいテクニックとして先方のベンダー側がパートナー側の担当者と相性が良さそうな人員をアサインするなども有効です。20代が活躍しているSIerのパートナー案件には若いメンバーを当てたり、ベテラン勢の多いSIerのパートナーたちにはシニアなメンバーをアサインすることもあります。

このようなリアルなノウハウ共有については、パートナービジネスに取り組む企業同士のコミュニティが重要だと考えています。

私たちが取り組む「Partner Success Summit」などをそのような場にしたいと考えています。

パートナー施策の疑問をSaaSスタートアップが秋國氏に相談をぶつけてみた

ここからは事前に募集を行ったSaaS事業を営む起業家からの相談・質問をベースに秋國氏にQ&Aで質問をぶつけていく。

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