PeopleX「シードラウンド16億円」調達の背景を徹底取材
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本日、6月3日、エンプロイーサクセスプラットフォーム「PeopleWork」を提供するPeopleXが、シードラウンドとしては異例の規模となる資金調達を公表した。
今年、4月に誕生した新進気鋭のSaaSスタートアップを率いるのは橘大地氏。
サイバーエージェントなどで社内弁護士を務めたのち、弁護士ドットコムでクラウドサイン事業をゼロから立ち上げ、ARR60億円規模まで成長をけん引した立役者だ。
発表では、WiLをリードインベスターとし、VC複数社、個人投資家複数名を引受先とする第三者割当増資によって16.1億円におよぶ資金調達を行ったことが明らかとなった。
一般的にシードラウンドの平均調達額は8,000万円程度であり、SaaS立ち上げ経験のある起業家とはいえ創業から間もないスタートアップによって、このような大規模な調達がなされたことは関係者から驚きをもって受け止められている。
PeopleXが事業を展開する人事領域では、T2D3成長を遂げたSmartHRを筆頭に、プラスアルファ・コンサルティング、カオナビなどの先行プレイヤーも多く存在する。
一見するとレッドオーシャンにも見えるHRテック領域で、PeopleXが取り組むのは、従来提供されてきたソリューションとは一線を画す「数十年に一度の日本型雇用システムの変革」を捉えたSaaSだ。
今回の取材では、代表の橘氏に加え、リードインベスターを務めるWiL共同創業者ジェネラルパートナー松本氏、プリンシパル小梶氏にも大規模なラウンドを担った背景を聞いている。
近年の連続起業家による大規模調達が続いているのはなぜなのか、そして、そのトレンドは新たなSaaS時代の幕開けを告げるのか。
直撃インタビューをもとにその背景を解き明かしていく。
シリアルアントレプレナーの大型調達が示す「スタートアップエコシステムの成熟」
まず、今回のPeopleXの資金調達に触れる前に、SaaSスタートアップにおける資金調達トレンドを解説していく。
Next SaaS Media Primaryでも度々言及をしてきたが、近年、シリアルアントレプレナー型のSaaSスタートアップによる大型ファイナンスが増えている。
2023年のSaaSスタートアップ全体の資金調達は247社、資金総額およそ1,350億円。それに対し、シリアルアントレプレナー型のSaaSスタートアップ、LayerX、ナレッジワーク、パトスロゴス、ジョーシスが同年に調達した資金合計は301億円。この4社だけでSaaSスタートアップ調達の2割強を占めていることとなる。
このような状況の要因を「VCの投資余力が増えているため」と指摘する向きもある。
過去10年で国内スタートアップに対する投資金額は毎年最高を更新しており、2022年には1兆円規模まで拡大を続けた。その原資となるのは、VCファンドの設立額であり、投資金額同様にこちらも増加傾向にあった。
現状、2023年数値は公表されていないものの、各社のプレスリリースでは連日ファンド組成が公表され、SBIインベストメントの1,000億円、JICベンチャー・グロース・インベストメンツの400億円といった大型ファンドの設立も見受けられ、2024年に至るまで資金流入のトレンドは続いている。
一方、2021年末以降のグロース株市場悪化に伴い、それ以前に高い企業価値算定で調達を行ったレイタースタートアップに対する投資件数が減少。大型の資金調達案件は鳴りを潜めた。
このような投資需給ギャップから「ドライパウダー(投資余力)が潤沢にあり大型の投資機会を模索するVCが、成功確度が高そうな起業家に対して多額の資金を入れる状況になっている」という見方もなされている。
果たして、シリアルアントレプレナーによる大型資金調達は「VCのカネ余り」による産物なのだろうか。
今回、PeopleXのラウンドでリードインベスターを務めるWiLの松本氏、小梶氏の両氏にそのような観点を率直にぶつけてみると、異なった観点から投資を決定した背景を聞くことができた。
「今回のPeopleXの挑戦は、産業転換のビッグウェーブに対してベットした起業だと考えている。"SaaSだから"、"連続起業家だから"ではなく、市場規模が巨大でマクロ的にも大変化が起きるタイミング、そして、難易度も高いからこそ、それを支える資金を投じた。(松本氏)」とあくまで、投資ありきではなく、構造変化を捉え、それを実行できる起業家あってこその大型投資である順序を強調する。
実際に、これまで大型調達が見られたシリアルアントレプレナー型のスタートアップでも取り組む課題の大きさが目立っている。
設立当初から「コンパウンド戦略」「エンタープライズ向け」「グローバル展開」といったこれまではIPO後に可能となるような難易度の高い領域にDay1から挑戦を行っている。
これまでのSaaSスタートアップは、SMBやアーリーアダプター層に向けたプロダクトをスピーディーに市場に普及することで成長を遂げ、複数の時価総額1,000億円企業をつくることに成功した。
そして、今、そのようなSaaSスタートアップ第一世代の成功により起業家にグロースの知見が蓄積されるとともに、それを支えるVCの資金も厚くなったスタートアップエコシステムの成熟が今回のPeopleXの大型ファイナンスにつながっている。
日本型雇用システムの一大転換に"商機あり"
それでは、橘氏が掴もうとする「ビッグウェーブ」とは一体なんなのか。そして、そこにはどのようなビジネス機会があるのだろうか。
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