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ALL STAR SAAS FUNDが語る、決して「オワコン」ではない日本のSaaSポテンシャル

SaaS企業分析コンテンツ・データ利用が可能となる

Primary メンバーシップ

2023年9月より開始しています!

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(本文)

今年8月、「SaaSオワコン説」を払拭するニュースがまた一つ飛び込んできた。

SaaSスタートアップへの投資を中心に行うALL STAR SAAS FUNDが調達総額157億円に及ぶ3号ファンドの設立のリリースだ。

今回、公表されたファンドLP(ファンド出資者)には、Sequoia Heritageやシンガポールの政府ファンドを母体とするPavilion Capital、MIT Investment Management Companyなど著名な海外投資家が名を連ねている。

米国ではスタートアップ投資の不況が盛んに報じられるなか、日本のSaaSスタートアップに資金を投じる理由はなにか。そして、その資金を託された、前田ヒロ氏、湊雅之氏は、今後の日本のSaaSにどのような可能性を見ているのか。

Primaryでは、メディアリニューアル特集として、ALL STAR SAAS FUNDがオフィスを構えるシンガポール、東京オフィスで2回にわたる取材を敢行した。

SaaS投資のトップランナーが今見ている景色を明らかにしていく。

左: 前田ヒロ 氏 | ALL STAR SAAS FUND マネージングパートナー
2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2015年には日本をはじめ、アメリカやインド、東南アジアを拠点とするスタートアップへの投資活動を行うグローバルファンド「BEENEXT」を設立。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。

右:湊 雅之氏 | ALL STAR SAAS FUND シニアパートナー
東京工業大学工学部・同大学院卒。米カーネギーメロン大学経営大学院卒(経営学修士)BCGにて国内大手企業の中期経営計画の策定やトランスフォーメーションの実行支援の戦略コンサルティング、独化学大手BASFにてエンタープライズ営業および新規事業開発に従事したのち、VCの世界へ。STRIVE、Salesforce Ventures、DNX Venturesにて、日本のB2B/SaaSスタートアップ約40社へのVC投資および成長支援を担当。

海外機関投資家はなぜ日本のSaaS市場に期待するのか

ALL STAR SAAS FUNDは、BEENEXT Capital Management Pte. Ltd.が運営する国内SaaSスタートアップ投資ファンドだ。

投資ステージは、シードからシリーズAまでが中心となり、「主にARR1億円満たない企業への投資を施行している(前田氏)」というように、これまでSmartHR、ログラス、カミナシといった成長著しいSaaSスタートアップがARRを生み出していない段階から投資を行ってきた。

2015年からSaaSスタートアップへの投資を開始し、今回のリリースでは、ALL STAR SAAS FUNDとして総額約157億円となる3号ファンドの設立が明らかにされた。

――― 今回、ALL STAR SAAS FUNDとして、3号となるファンドが設立されました。2019年のファンド設立から、早いペースで調達を続けられていますが、背景をお聞かせください。

前田氏: 通常のVCファンドサイクルですと、10年満期の中で当初3~4年ぐらいで投資を行い、フォロー投資を行っていくというスタイルかと思います。その観点では、1号、2号と早いペースでファンドを立ち上げてきたと思います。

これは、2019年に自分が予想していた以上にSaaS企業が成長を遂げたことが要因です。3号ファンドでは、ARR100億円企業が生まれそうな業界や領域を考えていったときに、これぐらいの資金が必要だと考えました。

――― これまでの投資ステージ(シードからシリーズA中心)を変えていくようなことはあるのでしょうか。

前田氏:さらにフォローを手厚くできるような体制はとっていますが、基本的には、変えません。カミナシ、ログラス、SmartHRもそうですが、可能な限りARRが0という状態で投資し、フォローオンでシリーズB、Cまでいくのが理想です。

* 3号ファンド プレスリリースより、2023年8月30日時の投資ポートフォリオ

湊氏: 逆になぜ、それ以上のサイズにしなかったのかも話します?

前田氏: ファンドサイズを考えていく時に「投資機会」と 起業家が求めるその「資金需要」、 あとは、僕らの出資者に対する「リターン」、この3つを最大化することが念頭に置かれます。

このバランスを考えた時に、僕たちの場合は、やっぱりどうしてもこれ以上サイズを大きくしすぎると、どこかが失われるというか、整合性が取れない感覚があり、157億円という規模感に落ち着きました。

――― 日本のVCファンドのLPはこれまで事業法人や金融機関などが中心でしたが、海外投資家からの資金を受ける意義はなんでしょうか。

前田氏: 私たちは、国内では海外投資家からの出資比率が最も高いVCの一つだと思います。グローバルに著名な投資家からLP(Limited Partner)として投資を受けている理由は、海外の資本とネットワークを日本につなげていきたいという狙いがあるからです。

例えば、ALL STAR SAAS CONFERENCEを通して、海外の著名な経営者を招いています。また、海外の資本をうまく活用して、より日本のスタートアップに対して資本を供給する、場合によっては200億、300億といった単位の調達も可能になるようなパイプをつくる意味合いがあります。

グローバルな投資家は海外のVCに対して期待値高く投資を行っているので、その目線感に私たちもインスパイアされるということもあります。

湊氏: なぜ、彼らが私たちに投資をしてるかという観点もお伝えしたいと思います。これはシンプルに言うと「日本のSaaSは世界的に面白い存在」と思われているからです。

例えば、世界的に見ても日本の一部のSaaS企業で見られるような利益率を出しているケースはあまりなく、ITに対する予算は世界3位といった規模です。シリコンバレーのような競争は良い面もありますが、過当競争になれば利益率が下がり、倒産リスクも上がります。

ファイナンシャルリターンを考えた時の日本の優位性が評価されている面はあります。Sansanとかfreee、ユーザベースなどはそれを証明してきたのではないでしょうか。

――― 日本のSaaS市場に対して、海外投資家もしくは、ALL STAR SAAS FUNDとして投資を始めた当初と今で何か認識が変わってきたようなことはありますか。

前田氏:あまり変わりませんが、時間軸とともに確信が強まってきたという感じがします。私たちが投資を始めた当初は「時価総額1,000億円企業が今後誕生しますよ」と言っていましたが、現在では、Sansanを皮切りに複数社誕生しました。成長加速を見せる企業もあり、より海外投資家の関心が高まっています。

湊氏:これは、やはり日本のSaaS企業が自分たちの可能性を証明してきたということでもあると思います。他の業界と異なり、SaaSの業界が特殊なのは、自分たちのナレッジや経験をシェアする文化があることです。これによって、車輪の再発明を行うことなく飛躍的に成長を遂げることができました。

あえて聞きたい、SaaSは「オワコン」なのか?

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