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パスタソースと高野豆腐

歳の離れた従兄が 急逝した。慌てて新幹線を使って葬式に向かう。
従兄は現在は独り身だった事と、実家から離れて随分経つので地元の知り合いは誰と続いているのかわからず、親族だけの葬儀となった。総勢12名だ。

まず、久し振りですと言われ当惑する自分に「○○の娘の幸子です」と、説明を頂き、「ああ!!随分大きくなられて」と言いそうになったが、相手は既に35歳を過ぎていて大きくなられたは失礼だと思うので「随分年月がたった」と言うと「歳喰ったな」となるので、無難に「ああ!あまりお会いするチャンスが在りませんでしたよねぇ」としみじみ言う。実際会うのは葬儀が多くなってきたのもある。

昔、美人美人ともてはやされ、ちょっと子供心にも鼻にかけているのが見て取れるおばさんもすっかりおばあちゃんになっていて耳も遠くなっている。
大声で美人と言われない限り聞くことが出来ないのかと、ふと思う。
従兄より遥かに年上のおじさんがボケてきてはいるが元気いっぱいすぎて、
式場をうろつきおじさんの息子のお嫁さんが後から追いかける。

おばさんは自分を完全に誰かと勘違いしているであろうと思うが思い出話に頷く。「そういえば××は自転車で曲がり切れず崖から落ちたよね」と言われた。しかし同じようにボケたおばさんからは「○○ちゃん用水路を飛び越えれずに落ちて流れたよね」と言う。うちの親族はどうも運動神経の無さと反比例して度胸だけはある事を知る。

殆ど雑談コーナーとなっている所に式場の係の人がしびれを切らして
「これから葬儀を行います」といきなり室内の照明を暗くする。

「故▲▲様の葬儀ならびに初七日法要をとり行います」
あ、初七日もセットか。長くなると判明する。

音楽が流れ、係の人がしんみりと語る。「式が始まるまで、故人を静かに偲んでください」と言っているのにおじさんが「誰誰は来んのか?」と大声で話をする。お嫁さんがたしなめる。

葬儀が始まりお坊さんがぞろぞろやってくる・・・3人・・・?。
随分と盛大だなと思うが、故人は独り身で寂しいから増やしたのか
頼んだ親戚の意図はわからない。

お経を唱え始めてしばらくして
お坊さんのお経というか、付随するなんて言えばいい?
あえてパフォーマンスと言おう、それに絶句した。

今までそこまで凝ったお葬式を一族がしてこなかったのもあるかも知れない。なにせ僧侶3名による渾身ライブだ。激しい仏具の音にも度肝を抜く。

初めにお伝えしたように、12名が入る葬儀場。つまり小さい。
そこに僧侶が3名なんて会場の20%が僧侶なのだ。

メインの僧侶の激しいお経と仏具をバンバンと鳴らす音にその場の親族はひたすらおののく。メインの僧侶の渾身のパフォーマンスがさく裂。そして、親族一同ものすごく目を見張る事が起きた。

読経の高揚と共に仏具を思いっきり部屋の角に投げた!!!!
親族一同唖然とするなか、今度はやや大きいまた別の仏具を手に取る。
まさかあんな大きなものは投げないだろうとう思いきやそれも目いっぱい
投げる!!
「おおおおおおおおおおお」皆、葬儀だという事を忘れ声が出る。

そして、その後も派手なパフォーマンが続き、ご焼香となる。老人が多いのが理由なのか、段取りを何度も言う。それと直系の親族がいないため喪主を別の従兄がなったからなのか、手順が若干異なる。

勝手の違う作法に老人は完全無視していて、お嫁さんやお子さんが「違いますよ」とあれこれ指示する。その都度「え?」と、動きが止まる。

なんとか無事初七日法要まで終わったので、即座に自分はトイレに行く。
我慢していた訳では無いが、なんとなく嫌な予感がしたから。

戻ってくると棺に花を入れる最後のお別れの準備が整い、花を渡され入れる。人数が少ないのに供花だけはほぼ一人ずつ出しているお陰で、花が多く、さして大きくない故人の棺は本人が見えなくなるほど花で埋まる。
そして何故か一人が「○○さんと仲良くね」と話をする。去年亡くなった
親戚だ。そして○○さんの話が続く・・や、まず今目の前の方の話をしようよ?ね?と。そして大きなカサブランカを耳の横に置くから変な笑い声がでてしまう。どんだけ乙女。棺にくぎを打つが、何故か皆「もう出られんぞ」と言いながら打つ。怖いよあなたたち。

出棺となり、開いた扉の先に霊柩車が止まっている。純白。まあ、いいや。
と、その時トイレ争奪戦が始まった。小さい会場なのでトイレも2つしか
無いのだが自分を除く全員がトイレに行くから大混雑。先に行っておいて
良かった。

時間が押してきているので割と凄いスピードで焼き場に向かう。身内葬なので遺影も後部座席に放り投げて乗り込む。

随分走らせた山の頂に火葬場があった。そして、火葬場の係の人が言う。
「現在雨漏りで待合室は閉鎖されています」に、一同当惑するのもお構いなしに係の人は作業をすすめる。小さな窓から顔を見て最後のお別れをするが、「これから焼かれるぞ~」とおじさんが言う。皆が笑う。こんな風だっけお葬式ってと疑問が湧きつつも、棺を見送り手を合わせる。

待合室でお弁当を食べながら待つつもりが何故か車内でお弁当を食べる事に。車内でかかる音楽がアイドルの歌。「Let's Go Acrobat!」確かに先ほどの葬儀はある意味アクロバティックだったよなぁ・・・。車内では今度子供とコンサートに行く話などしていて、しんみりさは何一つない。

焼き上がり?時間となり、係の人が車に呼びに来る。まだ熱が骨やその周りから出ていて、独特なにおいに少し気分が悪くなる。箸で足元から骨を骨壺に入れていくのだが、順番通りに入れようとしないので従兄は天国で手足がバラバラについていそう。

勝手がわかっている自分に係の人が目くばせするので、最後頭蓋骨で蓋をするように骨を置く。隙間に骨を入れてくださいと言うのに、何故か皆頭蓋骨の上に置こうとするので係の人が途中から指示するようになる。「その骨は右に押し込んで!」「その骨はその隙間に入れて!」

このあと、別の家のお通夜があるらしく、早めの退場を言われていたらしく、あわただしく火葬場から戻り、残った花と葬儀の供え物を適当に分けた袋を手渡される。日帰りの予定なので新幹線の都合もあり、そそくさと親戚一同に挨拶をする。

従兄も甥っ子も皆集まって話をするが、あの葬儀の仏具を投げる事には驚いたからだろうけど「うちってなに宗?」と聞かれてしまった。

そしてこの集まりの中で一番の高齢のおじさんが、葬儀を思い出しながら
「長生きをしてみるもんだな!あんなのが見れるとはな!!」と
大笑いしながら言う。確かに長生きしなきゃ、あれは見れなかったもんね。
故人より相当歳を取っているだけに、その言葉には確かさがある。

新幹線に乗り込み、いったいお供え物はなんだろう?と紙袋をのぞき込むと
そこにはカルボナーラのパスタソースと乾燥高野豆腐が入っていた。

「こんなお供え物のお下がり、長生きしなきゃ見れなかったね」とくすりとした。





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