Hertzのテスラ離れに見る電気自動車の課題

米レンタカー最大手Hertzは、当初テスラから10万台の電気自動車(EV)を購入して、2024年末までに保有車両の1/4はEVにすると宣言していた。

しかし、Hertzは約360億円の損失を出してまで、すでに購入した約5万台のうち2万台を売却し、ガソリン車に入れ替えると発表した。

その最大の理由はテスラのクルマのリセールバリュー(再販売価格)の下落だ。マスクは個人向けの販売を促進するためにテスラの新車販売価格を最大1/3も値下げをし、その結果としてリセールバリューが大幅に下落したのだ。車両の利用と消耗が激しいアメリカのレンタカーは1年ちょっとで入れ替える。購入価格と売却価格の差額が実際の車両コストとなるから、リセールバリューが高ければ安いコストで車両を使用できたことになるけれど、逆に低くなると車両の利益率は悪くなる。

2つ目の理由はテスラのクルマは自動運転の不慣れ・不具合に加えてその加速性能の高さからアメリカで販売されている全自動車メーカーで最も事故率が高く(そのためHertzではわざとパワーを抑えた車両もあるらしい)、その上修理費がガソリン車と比べて倍くらいかかり、アフターマーケットのパーツが少ないためその入手にも時間がかかるから不稼働期間も長い。保険料も5割ほど高いらしいから、維持費に関しては4重苦だ。

3つ目の理由は当初計画していたほどテスラのレンタカーは人気・需要がなかったということ。テスラは、レンタカーとしてはとにかく最悪の利益率のクルマだったということだ。

Hertzのようなレンタカー最大手が採用するということは、見込み客が試乗して販売につなげるというテスラにとって大きなメリットがあったのだが、自らの価格戦略が仇となってその目論見が外れたということだ。

このHertzの件はEVというよりはテスラ固有の問題が大きいけれど、GMとFordはEVの生産計画を下方修正し、昨年10月にはGMと本田がEVの共同開発の中止を発表している。長期的にはEVが主流になることは間違いないと思うけれど、欧米は少々急ぎすぎて今はその逆風が吹いているということもあるかと思う。

そういう意味ではトヨタを始めとして日本はEVに関してまだ冷静だ。そもそも日本では電力の73%は火力発電(欧州は4割程度、アメリカは6割)なのだから、「電気自動車」と言っても実質的には石油や石炭を燃やして走っているのとそれほど変わりないわけで、火力発電比率が欧州並にならない限り、決して「環境にやさしい」とは言えないのだ。

日本の自家用車がすべてEVになったら、原子力発電だと10基、火力発電だと20基程度に相当する発電力の増強が必要になるという。膨大な充電インフラの整備も必要で、そこまでの送電ロスも大きくなる。クルマの動力源を置き換えるという目的のために、ものすごい設備投資と資源と労働力が必要になる。少子高齢化・低成長の日本でそんなことは可能なのか?目指すべきなのか?

そう考えると、新たな社会インフラを必要としない、「燃費の良いガソリン車」がいちばん環境にやさしいのではないかと思ったりもする。社会インフラを含めた社会総合的に考えると、日本ではあと10年くらいはハイブリッドがベストな解なのではないだろうか。

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