歩き方
仕事が延びて実家に帰るためのバスに間に合わなかった。それがもう絶対間に合わないレベルではなく、バス停に着いた1分前に発車したからキャンセルも間に合わず、3Dの席は空いたまま終点に着いたんだろう。忙しいという言葉で言い表すのも苛立つほど仕事が私の生活を侵食している。
「化合物さんのモチベーションって何なの?」と仕事の人に聞かれたが、そんなものがなくても私は働ける。モチベーションがあったら、それを失ったとき働けないじゃん。自分の気持ちも一定じゃないし仕事はもっと一定じゃない。
職場にかなり気の優しい男性がいて、存在は認知してるけどぜんぜん最近一緒に仕事する機会がなくて、久しぶりに会って色々話していたんだけど、しばらく話してたら、ふと「あれこの人まえこんなタメ口だったっけ…?」と思った。
以前は、
「ああ、はいはいはい、すみません、はい、大丈夫です」
「はい、すみません、はい」
「すみません、ちょっと確認していいですか、少し待ってくださいね、はい大丈夫です」
くらいしか聞いていない気がするのに、
「化合物さんはどの辺住んでるの?」
「会話、入ってきてよ!笑」
「地元一緒じゃん!うわそれわかるんだ、うれしー!」
とか、言ってる。
え、なんか…
あったのかな…
私は家の近くを歩いている少し変わったおじさんのことを思い出した。
すごく目がぱっちりしていて、そして夜遅く、23時とか朝の3時くらいになると、大音量で音楽をかけながら住宅街を歩いている。
それがいつも松たか子の『ありのままで』、ゆずの『栄光の架橋』かZARDの『負けないで』のどれかなのだ。
なんか近所のおばさんと普通に話してるくらいだから別段怒られず普通に受け入れられてるんだけど、ある日洗濯物を干していたらその人が通って、上から見ていたら、
泣いていた。
目をこすりながら歩いている。
なぜかそのとき、音楽を聴きながら泣いているんじゃなくて、大音量で音楽をかけないと歩けないのかもしれない、と自然に思った。
なんか、職場の人にタメ口で行く、みたいなのがこの人の歩き方になったのかな…と思った。
まあともかく本当に良い人なので、別に何でもいい。この人がしあわせならいいし、前より仲良く話せて嬉しかった。
仲良くなったこともあり、
「そういえば結婚されてましたっけ?」とこちらも少しデリケートな質問をしたら、
「あ、今日?か、明日……………」
と言って、止まった。
え
離婚?
「娘、産まれるの」
「え!えーーー!仕事してていいんですか?!」
「何かね、本当直前になるまで病院も入れないみたい。コロナで。だからまあ働かせてよ!笑」
なんか、本当よかった。
私はこういうのがモチベーションです。
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