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「言えない秘密」を見たら「ここに帰ってきて」を涙なしでは聴けなくなった

軽い気持ちで見に行った、と言ったら語弊があるかもしれないが。

きょもの映画出演が発表された去年から楽しみにしていた「言えない秘密」をようやく見てきた。
ネットのネタバレは踏まないようにしつつ、恐らく王道シンプルなラブストーリーなんだろうな、と思いポップコーンなど買ってのんびりと席に着いたのだが。

私はともかく、普段めっっっっっったなことでは泣かない旦那まで泣くとは思わなかった(衝撃)

京本大我が演じる夢を諦めかけた音大生、樋口湊人と、古川琴音さん演じる謎めいた雰囲 気の内藤雪乃。
取り壊される予定の古い音楽室で、ピアノの音色をきっかけに出会った2人。少しずつ心を通わせ、お互いに恋心を抱くようになる。けれど、時々感じる雪乃の言動への違和感。それが後半一気に伏線回収されていく。

途中、中だるみすることもなく、かといって展開が早すぎて置いて行かれることもなく、心地いいテンポ感で最後まで見ることができた。

全編を通して、主演の2人のナチュラルな演技がとても美しかった。多少、音楽をかじっている身としては、ピアノを演奏している「ふり」が不自然に見えたら残念だなぁと心配していたのだが、杞憂に終わった。一体どれほど練習したのか、全く違和感なくお芝居に落とし込まれていた。

旦那が気に入っていたのは、2人が2度目に海で遊ぶシーン。綱渡りみたいに流木の上を歩きながら交わす会話が、「素の2人が喋ってるみたいだった」と言っていた(「きょも、自転車乗れたんだね」とも言っていたが)。

私はラスト近く、全てを知った湊人が雪乃にもう一度会うため、夜の学校で「Secret」を弾くシーン。最初にメトロノームでテンポ設定をするものの、恐らく早い段階でテンポは乱れている。心の動揺と感情の乱れ、それでも雪乃に会いたい一心で最後まで弾ききろうとする凄まじい気迫だった。

雪乃が湊人に会うために歩く108歩。それは「Secret」の冒頭の指示にある「Allegletto」のテンポ設定、♩=108とも通じる(厳格な設定ではないがおおよそ)。
目を隠して歩く雪乃の頭の中には、♩=108で弾く「Secret」が流れていたのかもしれない。音楽をやっている人なら「もしかして」と気づくかもしれない仕掛けが上手い。

また、出番はそう多くなかったがとても印象的だったのが、湊人の父と雪乃の母だ。

湊人の父はマイペースに喫茶店を経営しながら、息子が悩んでいることにちゃんと気づいている。初めのうちは静観しつつも、さりげなく「ちゃんと気づいてるぞ、相談してくれていいからな」というアクションを見せる。
もう成人した子どもだが、まだ親に面倒を見てもらっている学生の身。息子を尊重しつつ、親としての優しさを示す塩梅としてこれ以上の最適解はないような気がした。

雪乃の母は、娘を失ってからの21年をどんな思いで過ごしていたのだろう。
ずっと片付けることができずにそのままにしてある部屋。玄関に飾られた幼い頃からの写真。決して癒えることのない悲しみと、娘を大切に育てていた思いが見えるようだった。

私は、20歳の時に同級生を癌で亡くした。
葬儀でご両親が泣き崩れていた姿は、21年経った今も昨日のことのように覚えている。映画には描かれていない部分で恐らくあっただろう雪乃の通夜、火葬、葬儀。そんなことまで想像してしまったらもう、涙が止まらなかった。

ショパンの名曲を始め、全編を通して効果的に使われていた様々な音楽。
一つ感動したことが、パンフレットに「Secret」の楽譜が載っていたことだ。

映画を見た後、家に帰るまでパンフレットを開かなかったので、帰りの車中で旦那に、
「あの楽譜、販売してほしい。弾いてみたい人絶対いっぱいいると思う。しかもちゃんと印刷されたのじゃなくて、劇中の手書き感そのままのだったらなお最高」
と、熱弁していた。まさか公式に先回りされているとは思わず、需要を分かりすぎているその手厚い配慮に感動した(オタクは作中に出てきたそのもののグッズが大好き)。

時を動かす不思議な力を持った楽譜、「Secret」。誰がどんな思いで書いた曲なのだろう。もし雪乃や湊人じゃない人が弾いたとしても同じことが起きたんだろうか。それとも、必要とする人の前だけに現れる楽譜なんだろうか。
無理なくストーリーが収まった後も、考察の余韻が残った。そして、「Secret」と同じくらい強くこの作品を印象づけたのがエンディングの「ここに帰ってきて」だった。


両A面の「GONG」よりも先にYou TubeにMVがアップされた「ここに帰ってきて」。シングルとしては2022年11月の「ふたり」以来のバラード曲だ。

①You Tube ver.→②歌番組でのフル歌唱→③CD発売→そして④「言えない秘密」鑑賞、という流れでこの曲を追ってきたが、映画を見てようやく全貌を知ったような気持ちになった。

最初の印象は「シンプル」。
歌詞が目新しいことを言っているわけではないし、サビは“ここに帰ってきて”という同じフレーズの繰り返し。MVも場面が変わるわけではなく、一つのセットでストリングスやピアノと共にメンバーが歌っている姿を映したものだ。映画に合わせてストレートで飾り気のない、歌唱力で勝負する曲にしたのだな、と思った。

次の印象は「自然」。
歌番組でのフル歌唱を初めて見て、この曲がいかに自然に作られているかがよく分かった。
無理に盛り上げようとしなくても、歌詞と音楽が自然に盛り上がりを作り、最後は自然に収まるようになっている。

長年合唱をやっているせいで、どんな曲を聴いても「これ、楽譜に起こしたらこういう強弱記号がつくだろうな」と思ってしまうのだが、多分「ここに帰ってきて」は強弱記号をつけてわざわざ指示しなくても歌っていれば自然に“そうなる”ように出来ている。
15~16世紀頃のポリフォニーと呼ばれる合唱曲も、大抵無理なく自然に作られていて、歌っていてとても楽だ。アクセントの位置にある音符が長かったり、盛り上げたい部分が上昇音階になっていたりする。

さらに、先日CDが発売され、レコーディングの様子を見た後の印象は「意外なほど技術力がいる曲」に変わった。

常々、SixTONESの曲は「簡単そうに聴こえる曲ほど歌うと難しい」と思っている。いい例が「Good Luck!」。

ポップで明るく楽しく、いわゆる王道のアイドルソングに聴こえる。が、カラオケで歌ったことがある人は分かると思うが、この曲意外に音が取りづらい。特に転調したサビの、 “何回だってIt’s OK!最後はやっぱり笑って踊ろうぜ” の部分。

低い音から高い音まで、一瞬で駆けあがる音域の幅が広く、地声と裏声を上手く使い分けないと正しく音が取れない。サビ→2番に入る転調もだいぶ高度だ。自分だったら絶対に何回かに一回は外す。

「ここに帰ってきて」も同じように、簡単そうに聴こえて難しい曲代表と言える。
樹がレコーディングシーンで、サビの “ここに帰ってきて” 部分を歌っていたが、3回繰り返すこのフレーズの合間に休符がないため、“ここに帰ってきて”の後に一瞬でブレスしなければならない。ノンブレスで行ってもいいのだが、だらっと言葉が繋がってもいけないので、やはり一瞬の隙間を作るのがベストだ。

レコーディングでは、「『ここに』を丁寧に歌って」とスタッフさんがディレクションしている声も入っていて、思わず「わかる~~~!!!」と叫んでしまった。
もしこの曲を自分の合唱団で練習したとしたら、絶対に指揮者に「どこに帰ってきてほしいと思って歌ってるのかが伝わらない。『ここに』帰ってきてほしいんでしょ?じゃあその言葉を丁寧に歌って」と言われていたはずだ。
レコーディング風景は本当に大好物なので、SixTONESに関しては全曲見せてほしいくらいだ。スタッフさんがどのくらい細かいニュアンスまで指導しているのかぜひ知りたい。

最後に「言えない秘密」のエンドロールに流れる「ここに帰ってきて」を聴いて、止まらない涙を拭いながら、(やっとこの曲の全てを知ることができた)と思った。
いろいろな解釈があると思うが、1番は湊人の、2番は雪乃の心情を歌っているように思える。そして、Cメロは映画を見た後だと湊人の切実な心の叫びに聴こえて仕方がない。

どうしてあの時 気づけなかったのだろう?
どうしてあの時 言えなかったのだろう?
あの日まで 時間を戻せたら
ありがとうって 伝えたい

そして、「ここに帰ってきて」と繰り返すラストフレーズへと繋がっていく。

歌において、「同じフレーズを繰り返す」ことには必ず意味がある。「絶対に同じように歌うな」と言われるし、普通は繰り返せば繰り返すほど気持ちが昂ぶっていくように歌う。
タイトルにもなっているシンプルな「ここに帰ってきて」を繰り返し歌うことは、もう二度と会えない大切な誰かを思う全ての人に刺さるはずだ。またひとつ、大切にしたい曲と出会うことができた。

ハッピーエンドにはなれなかった恋だけど、雪乃はきっと最期の瞬間は幸せだったと思う。
見終わった後、大切な人に「ありがとう」と「大好き」を伝えたくなるような作品だった。映画館を出た人の心には、“ここに帰ってきて”のメロディが焼きついて離れなくなっただろう。私も旦那も2人して食べることを忘れていたポップコーンは、ほとんどそのまま持ち帰ることになった。

ファンとしては、きょもが役者としてまた一段階評価を上げたような気がして嬉しかった。
SixTONESのおかげで映画館に足を運ぶ回数が急増している。まだまだお仕事を隠していそうな下半期、今度はどんなサプライズが待っているのか楽しみだ。