映画『Wの悲劇』のWはwinnerのW

映画『Wの悲劇』を鑑賞しました。

監督 澤井信一郎

脚本 荒井晴彦 澤井信一郎

出演 薬師丸ひろ子 世良公則 三田佳子 三田村邦彦


女優を夢見る新劇の劇団研究生、静香(薬師丸ひろ子)と演劇を辞めた森口(世良公則)。2人の間で交わされる言葉は夢を追う者にとって、耳を塞ぎたいような口を挟みたくなるような、ソワソワと思考を行ったり来たりさせるものだった。

役者は、役を取るためにはどんなことでもするの

劇団の公演『Wの悲劇』のヒロインをオーディションでライバルに奪われ、女中役兼雑用係になる静香。大阪公演の期間、偶然が重なり、ヒロインの母親役で出演している大物女優の身代わりに、ホテルの彼女の部屋で心臓発作で亡くなった富豪を自室に運び、彼の愛人として世に出ることに。身代わりになったかわりに東京公演でヒロイン役を手にする。

はじめは共感が多かった静香の選択と行動に、段々とついていけなくなり息を呑み見守ることしか出来なくなる感覚が恐ろしかった。

ヒロインを演じきったあとのカーテンコール。彼女の顔つきは、冒頭の女優への憧れで煌めく姿から一変し、現実を直視して勝利に対する執念と覚悟がにじみ出る狂気の女優となっていた。

この世の「成功者」、すなわち「人生の勝者」の在り方について考えさせられた。

自分の人生をちゃんと生きられなきゃどんな役でも舞台の上で生きられない

『かもめ』(アントン・チェーホフ)のニーナは、静香と同じく女優に憧れる。ニーナは成長して幾度の挫折と絶望を経験する中で、自分が夢見ていた名声は、女優は、思い描いていた素敵な「勝利」ではなく、現実は「忍耐」が必要なのだと悟ったと、同じように夢見ていたかつての恋人トレープレフに伝える。

静香もまた、最後に森口に、それでも芝居を続けたい、そのために自分の人生をしっかり生きるのだと、別れを告げる。

それは彼女が夢に「憧れる」少女から、夢を「現実にする」1人のプレイヤーになった瞬間であったように感じた。


細かい演出が素敵

照明をつけたり消したり。最後に部屋を出るとき天井に貼ってある『Wの悲劇』のフライヤーを剥がそうと、跳んだり窓枠にのぼってみたり試行錯誤するが届かず、笑って手を振り部屋をあとにするシーン。

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