3/20 育児日記(生後68日目) ピアノの音色の話

春の嵐とはいえ風が強すぎる。
今日は気温も低そうなので散歩にも行かず、家でピアノを弾いていた。

こう見えて(見えてないか)、私は趣味でピアノをやっていて、そこそこ弾ける。昔は小さな漁村のちょっとした神童だった。しかし悲しいかな、十五で才子、二十過ぎればなんとやら。エセ神童は20歳を過ぎる前にはピアノを辞めて完全にただの人となり、それだけに飽き足らず今では食って寝るだけの無職に成り果ててしまった。でも、今もピアノは私にとっては無くてはならないものだ。

まだ子どもを作る気がまるでなかった数年前、夫を説得し倒して、3LDKの住居の一部屋を防音室にリノベーションした。子が生まれた後だったら絶対できなかっただろう。ただでさえ手狭な家の貴重な一室を私の趣味のためだけに潰したんだから、夫には感謝しきりである。

4.5畳しかない防音室には、床面積に不釣合いなヤマハの中古のグランドピアノをみっちりぎゅうぎゅうに詰めて置いている(防音室もピアノも、私のなけなしの金をはたいて買った)。
妊娠する前は1日にだいたい1~2時間練習して友達と弾きあい会のようなものをやっていたけど、妊娠してからはモチベーションも下がり、1日10分くらい触るだけになっていた。

練習のやる気がなさすぎるときは、ショパンのエチュードop.10-4「黒鍵」をだらだら弾くに限る。
妊娠中も基本的にちんたら黒鍵を弾いていたので、赤ちゃんもお腹の中で聞いて覚えたのか、生まれてからぎゃんぎゃん泣いてどうしようもないときはピアノを弾くとほぼ確実に泣き止むし、色々な曲の中でもとりわけ黒鍵が好きらしい。黒鍵を弾き始めるとおめめがうとうとしはじめて、そのうちにスッ…と眠りにつく。子宮の中にいた頃もこんな感じだったのかな。


夫も少しピアノが弾けるんだけど、私が弾いて子が寝たあとピアノを夫に代わると、ムズムズッと起きてしまうから不思議だ。

ピアノというのは面白いもので、同じピアノでも演奏者によって音が変わる。逆に、同じ演奏者であればどのピアノを弾いたって同じような音が出る。ピアノの音は、その人固有の声のようなものなんだと思う。

実際、ピアノの演奏は演奏者自身の喋り方に似ていると感じることも多い。
喋り方というのは、声色、発声、母語、間のとり方など、色んな要素をひっくるめてそう言っているんだけど、「喋ること」がその人から発せられる「音楽」だとすると、ピアノの演奏も喋り方に似て当然なのかもしれない。音楽と言葉は切っても切れない関係にあるし。

赤ちゃんは、お腹の中でずっと聞いていた母親の声を、生まれてからも正確に聞き分けることができるという。それと同じで、お腹の中で聞いていた私のピアノの音を覚えているのかもしれない。夫と私の喋り方が違うように、夫と私の演奏の違いが分かっているのかもしれない。

爆睡する子

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