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人間交差点4号【デスバレー】

俺「嫌っすよ…のぞむ君、R(私の弟)からも金借りて返してないでしょ?」

のぞむ君「マジで頼むよ!368Gで絶対ボーナスくるんだって!頼む!」

俺「しつこいっす。嫌っす。」

のぞむ君「カッパと戦った話教えるから!」

眠れないから4号機の話をしようか。




このデスバレー、まぁー見事に癖の強い台だった。

目押しもビタ押しも無く簡単に大量獲得が狙える台が増えていた時代に、BIG中にとてつもない技術介入を要求してくる台だったが…

今みたいにインターネットの普及がなく情報が乏しいせいかハイエナには向いていた台で、雰囲気も相まって私は大好きだった。



そんな難しい台を朝イチから全ツッパして、すっからかんになったバカの名前は「のぞむ」

シャブに草に神にリキッドと接種出来るケミカルは全て飲み込み、常に手は震え声はビブラートがかかり見た目は骨々ロックな歩くMDMA。

いつの間にか私達の仲間内にいて草を盗む常習犯でもあった。

私もその日は金を貸す気なんてなかった。当たり前だ、キンパルのBIGを順押し消化してる奴なんかに難関台のデスバレーなど打っていて未来なんざない。

そもそも、のぞむには未来なんざない。




しかしどうだろう…利子としてカッパの話をしてやると言うじゃないか。しかもカッパと戦った話だ、17歳男子の心は踊ってしまう。

私が貸すかどうか悩んでいる間、のぞむ君はずっとカッパにかけた技の話をビブラートの効いた声を使い誘惑してくるのだ。

私は二万円を財布から出し、のぞむ君に渡した。




目はギラギラしてるし、呂律回らねーし、骨だし…本当薬物ってこわいな。っていう見本。

薬物、ダメ絶対。

のぞむ君はデスバレーのBIGも適当順押しで400枚弱…もう、全てが怖い。

薬物、ダメ絶対。




さて、その日はカッパの話が聴きたいが聴けなかった、のぞむ君はバケ後の台を捨てていなくなっていた。

私はそれに座り二万円を回収した。

そういう事じゃない。カッパの話だ、カッパとの熱い戦いの話を私は知りたかったのだ。

あの時の感情こそが憤怒なのだろう。

しかし、いないから聞けない。


その日はどうもモヤモヤして家に帰ったが、2週間後再会したのぞむ君は私の弟からお仕置きを受けている最中だった。

もう一方的でなんか観ていて辛くなるくらい、私もお金を貸していたがさすがに止めに入った。

のぞむ君のHPは大体7くらいしかないのを知っているから。

止めに入ったのは良いが、弟の怒りはおさまらなかった。怒鳴り声をあげのぞむを殴りながら罵倒した。

金は返さない、草はちょろまかす、金髪がむかつく、細い奴は死ね、片親、カッパの話しねーじゃねーか…

弟よ、おまえもか。気になるよな、カッパ。本当血って怖い。


私はのぞむ君に近寄り小声で伝えた。

「カッパの話しろや、おさまるかもしれん…」

のぞむ君は泣きながら小声で答えてくれたんだ。

「ごべん…カッパと戦ったこどない…ごべん…」

俺も殴った。


日々を暮らしていく中でのぞむ君は自然といなくなっていた。

パチンコ屋にもいなければ、誰かの家にもいない…別に良い奴でもない。むしろ絶対に悪い奴。

誰かの口から名前が出ることもないし、私も正直あまり記憶にない。彼との思い出は打つのが下手なスロットくらいなものだ。


でも、こうやって4号機の思い出を振り返るとなぜか出てきた。

薬やめて普通に暮らしていたら良いな、出来たらギャンブルも。

さて、どなたかカッパと戦った人いませんかね?
二万円までは貸しますよ。

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