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ソナチネチクルス02

2013年7月21日(日) 
ピアノ:青木かおり
竹風堂善光寺大門店3F/竹風堂大門ホール

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今年度はテーマをソナチネにしました。いや、「ソナチネ」とゆーよりも「ソナチネアルバム」と言った方がいいかも。今回は第2回です。なお、今回のチクルスはちょっとサービスといいますか「お楽しみ」とゆー意味もちょっとだけあってブルグミュラーの曲も聴いていただこうかなと思ってアンコールで毎回聴いていただきます。
そして、今年度1年間でみなさんもよくご存知のブルグミュラーの25の練習曲Op100の全曲をだいたい順番にすべて聴いていただけることになってます。


さて、「ソナチネアルバム」ですが日本のピアノ教室の教材としては必須のものですよね。今やってるよ!とゆーお子さんもいるかもしれませんね。いるかな?ブルグミュラーはどうかな? まあ、ピアノ習ったことのある方も必ずやったことあると思います。だいたいみなさんが使うのは全音から出てるやつかな。ソナチネアルバムはケーラーとルートハルトとゆー二人の音楽家が編集してドイツのペータースとゆー出版社が19世紀後半くらいに、に出版したもので二巻で構成されてます。この「19世紀」とゆーのが今回の重要なキーワードです。 だいたい初級のレベルが終わると。ブルグミュラーがだんだん進んでくるとソナチネもやってみようか、なんてことになるんでしょうかね。まずブルグミュラーです。今日はブルグミュラーの6番から10番ですね、初歩の初歩の曲です。早速聴いていただきましょう。

ブルグミュラー:25の練習曲 Op.100(25 Leichte Etüden Op.100)より6〜10

6.進歩 7.清らかな流れ 8.優美 9.狩り 10.やさしい花

さて、前回ブルグミュラーは19世紀前半の作曲家だとゆーことをお話しました。これから徐々にソナチネアルバムの方に話を移しますけれども、バイエルも19世紀前半の作曲家です。
重要なので繰り返しますがキーワードは「19世紀」です。
その昔、音楽は一般市民のものではありませんでした(民謡とか舞曲、流行歌みたいなのは別ですよ)。イギリスが産業革命を成し遂げて、音楽がだんだん一般市民のものになり、一般市民がそれなりの経済力を持ち、コンサートに行くようになって、やっと一般の音楽愛好家が増えてくるようになるのです。特に19世紀に入るとピアノが市民社会にも徐々に普及するようになっていきます。イギリスのブロードウッドとゆーピアノの会社が19世紀に入ってから今のアップライトピアノよりも小さめのスクエアピアノの大量生産を始めたのも決定的でした。
19世紀前半はピアノの製造台数がいちばん多かったのはやっぱりイギリスでした。次いでフランス。ドイツやオーストリアはイギリス・フランスに比べると製造台数は少ないです。1850年の時点でイギリスは年間2万3000台。フランスも年間1万台を製造してましたが、ドイツは1万台に達していませんでした。いちはやく産業革命を成し遂げたイギリスはドイツ語圏よりもずっと早く近代的なマニュファクチャーが確立されていて、大量生産が可能になっていました。ドイツは19世紀の中盤でもまだ小さな工房で少人数でピアノを作ってたりもしました。ドイツ人のブルグミュラーがパリにやってきたのはそーゆー理由も大きいです。イギリスに次ぐピアノの製造台数を誇っていたフランスはピアノが普及し、ピアノ人口も多いから、ピアノの仕事も多いだろうとゆーことです。ピアノのパリで勝負してみるぜって感じです。前回聴いていただいたソナチネアルバムのクレメンティと同じですね。クレメンティは、まっすぐピアノの製造台数1位のイギリスを目指しました。クレメンティの場合は作曲とピアノ演奏だけじゃなくて、ピアノの製造販売もして楽譜の出版もして実業家としても大活躍しました。非常に多角的です。

クーラウ:ソナチネ ハ長調Op20-1、ソナチネ ハ長調Op55-1

さて、今日はフリードリヒ・クーラウですね。クーラウもブルグミュラーと同じドイツ人です。

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1786年ハノーファー生まれ。ブルグミュラーより年上ですね。子供の頃に事故で右目を失明してます。ブルグミュラーやクレメンティと同じようにドイツを出て、亡くなるまで外国で暮らした人です。当時はナポレオン戦争のまっただ中で、クレメンティは北欧に向かいました。ナポレオン戦争でボコボコに敗れたドイツの国土は荒廃した状態でした、クーラウはそんな中でデンマークに移り、大活躍することになったんです。当時のデンマークは北欧の強国でした。首都コペンハーゲンでは高度な文化が開花していました、ピアノの普及も早く、18世紀末にはピアノ音楽の雑誌も登場していました。デンマークは北欧のピアノ文化をリードする国だったのです。もちろんデンマークもナポレオン戦争の影響を受けて大変な状態でしたが、芸術や哲学、科学など学問も盛んで、「デンマーク黄金時代」と言われるすごい時代を迎えていたんです。そんなデンマークにクーラウは賭けたんですね。

前回はクレメンティとモーツァルトの組み合わせでしたが今回はクーラウとベートーヴェンの組み合わせです。これは何となくそうしたのではなく、ちゃんと意味があります。クーラウはベートーヴェンを非常に尊敬していて、作風も楽聖によく似ています。クーラウは当時普及が進んでいたフルートの作品を多く作ったので「フルートのベートーヴェン」と呼ばれることもあるんです。1825年にクーラウはベートーヴェンを訪問しています。ベートーヴェンとクーラウと二人で記憶が無くなるほど痛飲したそうです。別れ際に、ベートーヴェンはクーラウにカノン(クーラウの名前を織り込んであります)をプレゼントしました。ベートーヴェンはワイン好きだったし、クーラウも「酒豪」でした。呑兵衛の二人は気が合ったことでしょう。


これから聴いていただくクーラウの2つのソナチネはピアノ教室の定番中の定番。ものすごくポピュラーな作品です。

クーラウ/ソナチネ ハ長調Op20-1(ソナチネ・アルバム第 1巻第1番)
喜びで胸が膨らんでいくようなテーマは本当に素敵です。1楽章の展開部(動画の1m40sくらいから)は、ささやかなものですが、ベートーヴェン的に劇的なもので、これを弾く子どもたちはこの展開部は弾いてて興奮するでしょうねえ。おれはどうだったかな。もう記憶にないです(笑)カデンツァ風のパッセージもなかなか気がきいてます


クーラウ/ソナチネ ハ長調Op55-1(ソナチネ・アルバム第 1巻第4番)
第1楽章はとにかくよく歌うアレグロです。第二主題も歌う旋律なので「対照」が作られず、全体に大きく「歌」に傾いていますが、第一主題の後半に印象的なスタカートの和音を持ってきて単調にならないようにしています。
2楽章のヴィヴァーチェは対照的に軽快な舞曲調で書かれています。途中柔らかい田園風な感じのダンスになるのですが、ここがへ長調(田園的な音楽と言えばやっぱり田園交響曲。ザ・へ長調です)で書かれているのがミソです。
Op20-1に比べるとやや地味な印象ですが、味わいという点では決して負けてません。

ベートーヴェン:ロンド ハ長調 Op51-1、ソナタ ト短調Op.49-1、ソナタト長調Op.49-2

後半はベートーヴェンです


ロンドハ長調Op51-1
この作品は、曲の規模が小さくて技術的にやや簡素というだけで、音楽の内容はものすごく大人向けです。タイトルの通りロンド形式で書かれていますが同時に変奏曲的でもあるという、なかなか独特な構成です。この作品は"Moderato grazioso"と指示されている通り、ロココ風なテーマで典雅に始まります。動画の1m00s〜あたりから音楽は徐々に憂いを帯びてきます。この典雅な哀しみの感覚はモーツァルト的と言ってもいいでしょう。この感覚の中からベートーヴェン的なパトスが立ち上がる様は(2m00s)圧巻です。そのパトスの中に装飾的な音型が混入してくると、音楽はそれに誘われるように再び典雅な哀しみの中に戻ってきます(3m00s〜)。優雅な微笑みと涙が入り混じったような微妙な感覚はまさしくモーツァルト的です。終盤、一瞬だけベートーヴェン的な歓喜の方向に舵を切るのかな…と思うとさっと身を翻してしまいます。そして、ささやかな充足感をほんの少しだけ味わったところで決然と曲を閉じます。 1796-7年頃の初期の作品ですが、スタイルはロココ調ですが精神的には中期以降の雰囲気を予見しているようなところがあります。素晴らしい作品ですから、もっと注目されるべき作品と言えましょう。教室の子供たちに独占させておくだけじゃもったいない見事な音楽です。

ソナタ ト短調とト長調はセットで1805年にOp.49として出版されました。両曲ともやさしいソナタ」の副題がつけられています。どちらも簡素な二楽章形式です。もしかすると生徒さんのために書いたのかもしれませんが、献辞はなかったようだし、自筆譜も失われていて、どーゆー経緯で書かれたのかはよくわかりません。ソナタの順番で言うと19番と20番ということになっていますが、作曲されたのは1796-98年なので実はだいぶ前の作品です。作品番号は基本的に出版順でつけられるのでこーゆーことはたまにあります。年代で言えばOp.7のソナタと同じ時期の作品です。確かに秘術的には「やさしい」し規模も小さいですが、音楽の内容には手抜きはありません。場合によっては形式的に工夫も凝らされています。楽譜の見かけと「やさしいソナタ」とゆー副題に騙されてはいけません。こーゆー芸術的に高度な内容を技術的に易しく簡潔に書けるってところが天才の凄さでしょう。

ベートーヴェン / ソナタ ト短調Op.49-1(ソナチネアルバム第1巻第16番)
この作品のほの暗い情緒はどうかなあ。ちょっとおマセな子だったらけっこうハマって弾くかもしれませんね。1楽章終盤の切なさはたまらないですね。消えていくように終わるのがまたシブい。2楽章は軽快なロンド。対位法的に凝った書き方で実にjかっこいい楽章。ラスト、コーダの前のフェルマータがいいんだよなあ(07m15sくらいから聴いて下さい)。めっちゃシビれる。

ベートーヴェン/ソナタト長調Op.49-2(ソナチネアルバム第1巻第15番)

七重奏曲

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