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ソナチネチクルス05

2014年1月26日

竹風堂善光寺大門店3F 

竹風堂大門ホール
ピアノ:神林杏子



本日はようこそおいで下さいました。
今年のチクルスはちょっとサービスといいますか「お楽しみ」とゆー意味もちょっとだけあってブルグミュラーも毎回聴いていただいてます。今年度1年間でみなさんもよくご存知のブルグミュラーの25の練習曲の全25曲をだいたい順番にすべて聴いていただけることになってます。毎回5曲ずつ弾いていただいているのですが、このコンサートは全6回のコンサートなので5曲ずつだと今回で25曲ぜんぶ終わっちゃうので、今回は足踏みすることにしました。いつもはぼくが決めた5曲を順番に弾いて頂いてるのですが、今日は番外で杏子ちゃんには好きなのを2~3曲弾いてねとお願いしてあります。

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大トリの深沢先生に最後の25番の貴婦人の乗馬を弾いてきれいにまとめたいなと思って、そんな風にしました。ソナチネアルバムもブルグミュラーもピアノ教室の定番ですね!ほんとにいい曲が多いので、プロフェッショナルなピアニストがコンサートのステージで弾いたらさぞ素敵だろうと思いましてね。前回まででブルグミュラーの1番から20番までを順に聴いて頂きましたが、改めて聴くと懐かしいとかそーゆー段階を越えて、ただもう音楽としてひたすら素晴らしいなとつくづく思いました。

では、いつものようにブルグミュラーです。

今日は杏子ちゃん先生セレクトの3曲です。


■ブルグミュラー 25の練習曲より
    「やさしい花」「アラベスク」「スティリアの女


ところで今回のチクルスはアンコールにも趣向をこらしてあります。前回のシューマンのチクルスでは毎回ピアニストのみなさんにトロイメライを弾いていただいてました、ショパンのチクルスでは別れの曲でした。今回も毎回同じ曲をアンコールで弾いていただくことにしてます。今回はベートーヴェンの「エリーゼのために」です。ピアノやり始めたお子さんのあこがれの曲ですよね。

コンサートはエリーゼのためにが出たらおしまいですので、よろしくお願いします。ピアニストのご機嫌が良ければもう一曲くらいアンコールがあるかもしれませんので、もう少し聴きたいなと思ったらちょっと熱烈に拍手してみて下さい。

さて、「ソナチネアルバム」ですが日本のピアノ教室の教材としては必須のものです。みなさんが使うのは全音から出てるやつでしょうね。これはケーラーとルートハルトとゆー二人の音楽家が編集してドイツのペータースとゆー出版社が19世紀後半くらいに出版したもので二巻から成っています。この「19世紀」とゆーのが今回の重要なキーワードです。
初級のレベルが終わってブルグミュラーがだんだん進んでくるとソナチネやってみようか、なんてことになるんでしょうか。今日取り上げるのはソナチネアルバムの2巻の方の曲ばかりです。しかもソナチネはやらずに一緒に入ってる小品ばかり聴いて頂きます。だいたいピアノ教室で取り上げられるのは1巻の曲ばかりで、2巻の方はあまりやらないし、先生によっては「2巻の楽譜も持ってないよ」なんて方もいらっしゃるでしょう。たぶん二巻の曲も一巻とあまりスタイルもテクニックの点でもあまり変わらないので、一巻をやったら違う傾向のものにいっちゃうのかもしれません。今日は2巻の中からバッハやシューマンの小品を聴いて頂きます。ソナチネアルバムはですね、実はソナチネだけが入ってるわけじゃなくて、その他いろんな小品が1巻にも2巻にもたくさん入っているのです。かなり多角的に勉強できるようになっているんです。


では、バッハの作品をいくつか聴いて頂きましょう。バッハのインヴェンションもピアノ教室では定番です。ソナチネアルバムにはインヴェンションの第1番が入ってますし、小プレリュードBWV939も入ってます。ソナチネアルバムは19世紀に編集された曲集なんですが、バッハが偉大な作曲家として一般的に認知されるようになるのは19世紀にメンデルスゾーンやシューマンといった天才たちが「バッハは凄い!」と声高に、全身全霊でアピールし始めたからなんです。それまではバッハの音楽はほとんど忘れられた存在でした。普通のひとたちはバッハのことなんかぜーんぜん知らなかった。本当にそんな時代があったんですよ!そのバッハの作品を、バッハがようやく見直されてからそんなに時間の経っていない時代に敢えて取り上げた編集者の見識の高さは素晴らしいものがありますね。

ではまずソナチネアルバムに入っているバッハを聴いてみましょう。バッハの有名なインヴェンションはバッハが妻のアンナ・マグダレーナや自分の子どもたちの練習用に書いた教育的作品のひとつです(「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」も有名です)。バッハはそそういった作品を沢山書きました。これらの作品は最高の教材でありながら芸術的にも極めて高度で、世界的なピアニストたちもこぞって録音をしたりするようなハイレベルな作品ばかりです。教育用の作品という段階を大きく超えてます。今日はせっかくですからソナチネアルバムに入っていないインヴェンションも2曲追加して聴いていただきます。5つの小前奏曲(BWV939-943)はバッハと同時代のヨハン・ペーター・ケルナー(1705-1772)の写譜しか残っていなくて、そのために偽作ではないかという説もあります。これはインヴェンションへの導入に使うといいでしょうねえ。ケルナーはバッハを非常に尊敬していて、多数のバッハの作品を写譜して残しました。バッハの作品は自筆譜が失われているものも多いので、ケルナー残した写譜はとても貴重なのです。今日はBWV939を聴いてみましょう。

有名な6つの無伴奏チェロ組曲も自筆譜がなくて、バッハの妻アンナ・マグダレーナとケルナーのふたつの写譜で後世に伝えられています。アンナ・マグダレーナの写譜は非常に美しくて有名なものですが、ケルナーの写譜もまたとても美しいです。大バッハへの愛情や敬意が写譜の筆致に表れているのでしょうね。

■バッハ 小前奏曲BWV939(ソナチネ・アルバム第2巻)

■バッハ:2声のインヴェンション集より第1番 BWV772(ソナチネ・アルバム第2巻)■2声のインヴェンション集より第4番 BWV775■2声のインヴェンション集より 第8番 BWV779



   
ソナチネアルバムにはシューマンの作品もいくつか入っているので、今日は3曲聴いていただきます。

シューマン 「子守歌」Op.124-6(ソナチネ・アルバム第2巻)「楽しき農夫」Op.68-10(ソナチネ・アルバム第2巻)「小さな練習曲」Op.68-14(ソナチネ・アルバム第2巻)

 


シューマンは子だくさんで奥さんのクララが優秀なピアニストで同時にピアノの先生でもありましたから、子どもたちのための教育用の作品をたくさん書いてます。子どものための曲集「ユーゲントアルバム」Op.68は特に有名です。ソナチネアルバムにもこのうちの数曲が収められていいます。とても有名な「楽しき農夫」(原題は「仕事を終えて帰る上機嫌な農夫」です)ともう一曲、「小さな練習曲」を聴いていただきます。子守唄は一応ソナチネアルバムに入っていますが、「ユーゲントアルバム」からではなく「アルバムの綴り」Op124という小品集の中の1曲で、これは子ども用の曲とゆーわけではありません。
ソナチネアルバムは古典的なソナチネをただ並べたばかりの曲ではなくて、実はこうやってバッハからシューマンまでバロックからロマン派の作品まで網羅していて、曲のスタイルもソナチネだけではなくこういった小品から変奏曲、バロックの舞曲のようなものから、ベートーヴェンの交響曲第1番の第2楽章とハイドンの交響曲94番「驚愕」の第2楽章のピアノ用の編曲やモーツァルトのオペラのアリアのピアノ編曲版までほんとうに様々な要素が入ってるんです。単にソナチネのコレクションではなくて総合的で多角的なピアノ教育用曲集を目指して編集されているます。実はかなり広い視野で深く考えられているんです。けっこういろんな可能性を持つ曲集だと思います。まあ、先生の使い方次第ですけどね。



後半はハチャトゥリャンとカバレフスキーのソナチネを聴いていただきます

■カバレフスキー ソナチネ Op.13-2

カバレフスキーはソナチネを二曲書いています。op.13の1番と2番です。こないだ有名な1番の方を聴いて頂いたので、今日は2番の方を聴いてみようと思います。2番の方は全体に音楽の規模が大きい。ちょっとシニカルで対位法的に書かれた1楽章と陰鬱でシリアスな2楽章のせいで教室の子供たちにはちょっと受けが悪いのかもしれない。3楽章は元気に転げ回るような音楽で子供も楽しいと思うが、これもまた途中から対位法的になって音楽が複雑になってくる。やっぱり1番の方がシンプルでわかりやすく、リズムも断然かっこいいしキャッチーなのだ。でも2番もなかなか聴きごたえある曲。ちょっと大人向けといえるかも。


■ハチャトゥリアン ソナチネ

アラム・ハチャトゥリアン(1903-1978)は旧ソ連の作曲家と書かれたりもしてるけど、やっぱりアルメニアの作曲家と言って欲しいです。

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ハチャトゥリアンといえばガイーヌの「剣の舞」スパルタカスの「レスギンカ、 「仮面舞踏会」のワルツあたりが有名でしょうか。あとはたぶんヴァイオリン協奏曲か。彼の音楽性はソ連やロシアからは大きくはみ出しています。本当に問答無用で血が騒ぎます。民族の血の沸騰。地理的にも中央アジアに近い国だし、その点で日本人も血液の奥深いところで反応するところがあるかもしれない。

ハチャトゥリアンもプロコフィエフやカバレフスキーと同様に子供のための教育的な作品を書いています。旧ソ連時代は教育的ピアノ作品の宝庫ですね。国策的な面もあるのかもしれませんが、これだけハイレベルの曲が残されたのは羨ましい限りです。これから聴いていただくソナチネもそうですし、小品集の「子供のためのアルバム」も非常に素晴らしいものです。例えば「イワンの歌」なんて本当に感動的だし「エチュード」や「トッカータ」は超かっこいいです。

ソナチネは1959年の作品です。旧ソ連のソナチネではカバレフスキーのOp13-1の一人勝ちみたいな状況でしたけれども、今はハチャトゥリアンのソナチネも弾かれるようになってきてるようですね。

1.3楽章の圧倒的なパワーで爆走する音型の中に強烈なリズムを打ち込んでくるスタイルはまさにハチャトゥリアンならではのものです。この作品の音楽的中心は明らかに2楽章でしょう。内面的で心揺さぶられる楽章です(動画の1:45〜)。これを勉強する子供たちは幸せだなあと思います。

では聴いてみましょう。


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余談:アンナ・マグダレーナ・バッハの日記

バッハをテーマにした重要な古典的傑作映画がある。特にバッハの教育的作品を語るには絶対に欠かせない。

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