第1 概要
 民事弁護起案は概ね,下の構成で成り立っていることが多い。
 第1問 書面起案(訴状,答弁書,最優準備書面のいずれか)
 第2問,第3問 小問(和解,執行・保全,立証,倫理・職責)

第2 注意事項
 起案要領をよく読む。特に,書面起案ではどちら側(原告or被告)なのか気をつけること。また,主張すべき争点,主張のいらない争点が書いてあることもあるので,記載漏れや余事記載を回避するためにもよく読む。
 時間配分に気をつける。主張の組み立ては丁寧にやるべきだが,それで書面がスカスカでは元も子もない。
 証拠がある場合には必ず摘示すること。訴状・答弁書では当事者の相談内容も引用可能だし,最終準備書面では,尋問調書の供述部分も引用可能である。書証も供述もガンガン摘示しまくるぐらいの気持ちの方がいい。
 小問対策も十分に行うこと。小問がボロボロでも書面起案の内容が良ければ落ちることはないようだが,もし書面起案がボロボロで,かつ,小問もボロボロだと救済されようがない。

第2 書面起案について

 1.訴状
   書面の型としては下のようになる(なお,表題等を省略する旨起案要領に書かれていることが多いため,それらは型から省いている。ただし,記載する旨起案要領に書かれている場合は,忘れずに書くこと)。
  (1) 請求の趣旨
    「1 被告は,原告に対し,~万円を支払え
     2 訴訟費用は被告の負担とする
     との判決並びに仮執行の宣言を求める。」
    というようなもの。
     判決の主文がそっくりそのままこれになるようなイメージ。
     訴訟費用についても被告の負担とするように忘れずに記載する。
     仮執行宣言は,だいたい付けるパターンが多い。
  (2) 請求の原因
      請求原因事実に該当する具体的事実を記載する。
      きちんと表題をつける。
      裁判所が初めに事件に接する書面なので,「1 当事者」として,当事者がどのような人物で,どのような関係にあるのかを記載するのが丁寧。
      最後に「よって書き」を書くのを忘れない。
  (3) 関連する事実
      裁判所としては請求原因事実だけを見せられたところで事件の概要が掴みづらい。そのため,請求原因事実ではない事実も記載する。こちら側のストーリーを提示することをイメージすると書きやすいかもしれない。
      経緯の羅列になってしまうと,結局単なる思い出話や昔話を展開することになりかねないので,表題等をつけて,要証事実との関係で重要な事実を挙げること。もっとも,事実を絞り込みすぎる必要はない。絞り込みすぎて事実を落とすぐらいなら,筆力とのバランスにもよるが,要証事実と無理やりにでも結びつけて書いたほうがマシだと思う。また,事実を挙げる際には,根拠となる証拠(書証や原告メモなど)を記載すること。

2.答弁書
   書面の型としては下のようになる(なお,表題等を省略する旨起案要領に書かれていることが多いため,それらは型から省いている。ただし,記載する旨起案要領に書かれている場合は,忘れずに書くこと)。
  (1) 請求の趣旨に対する答弁
      「1 原告の請求を棄却する
       2 訴訟費用は原告の負担とする
       との判決を求める。」
      というようなもの。
       訴訟物が複数ある場合には,「原告の請求をいずれも棄却する」というふうに変わるので注意すること。
       ここでも,訴訟費用を原告の負担となるように忘れずに記載するのがルール。
  (2) 請求の原因に対する認否
       事実に対しては「認める」「否認する」「不知」のいずれか,主張に対しては「争う」「争わない」のいずれかで書く。
       どこについて認めて,どこについて否認するのか明確にするために,「請求の原因1,第1段落については認める。第2段落については否認する。」などと具体的に記載する。
       「その余については認める」と書きたくなってしまうこともあるが,自分が予想していなかった事実について自白が成立してしまう可能性があるため,「その余については否認する」などに変えるなどして避けるべきである。
       否認する場合については。単に「否認する。」とだけ書くのではなく,それに続いて一言ぐらいで簡単な理由を書く。長々とした理由は,「被告の主張」のところで書くので不要。
       よって書きについては「争う」と記載するはず。
  (3) 関連する事実に対する認否
       これも,(2)と同様に,「認める」「否認する」「不知」「争う」「争わない」のいずれかで記載する。
  (3) 被告の主張
       裁判所としては,初めて被告のストーリーに接する機会となる。そのため,基本的な注意事項は,訴状起案の「関連する事実」と同様である。ただし,当事者については裁判所はすでに把握済みなので記載する必要はない。

3.最終準備書面
   書面の型としては,大きく分けると,総論→各論→結論のようになる。
 (1) 総論
     総論部分では,事案の概要(「本件は,原告が,被告に対し,~を求めている事案である。」),相手方の主張とそれに対する反論も含めた,こちら側の主張が成り立つ理由(「これに対して,原告(被告)は,~と主張する。しかしながら,~に照らすと/という理由から,(こちら側の結論であること)は明らかである。」),求める結論(「よって,原告の請求は認められる/棄却されるべきである。」)を記載する。
 (2) 各論
     各論部分では,自分に有利な間接事実を見出し(「被告が売買代金相当額の金を借りたこと」)としてつけ,見出しの下に結論(「被告は,売買代金相当額の金を借りており,売買契約締結に対する強い意思を有していた。」),その下に事実の摘示(「すなわち,被告は,○年○月○日,△銀行から○万円を借りたものである(証拠)。その際,被告は,銀行の担当者に対して「×××」と発言しており(証拠),…」),その下に事実の評価(「つまり,被告は,紛争が生じる前に当事者以外の者である銀行員に対して不動産購入の旨の説明を行い,それにより売買代金同額の金員を借りていたものであるから,売買契約締結に向けて被告自身が積極的に行動していたといえる。」),最後に小括(「これらの事実からすると,被告は売買代金締結に対する強い意思を有していたと認められる」)といった形式で書くのが望ましい。
     また,相手方が主張する相手方に有利な事実についても,証拠に基づいて反論し,こちら側の主張が正当であることを主張する必要がある。反論する際には,刑事弁護の想定弁論と同じように,そのような事実がそもそも認められるか,認められるとして推認力があるのかといった視点で考えると反論しやすい。
 (3) 結語
     「以上述べたとおり,(原告の請求/被告の主張)には理由があるが,(被告の主張/原告の請求)には理由がない。
      よって,本件請求は(認容/棄却)されるべきである。」


第3 小問について
 1. 和解
  和解条項案を作成するというもの。
  和解条項については白表紙に詳しく記載があるため,そちらを参照するのが最も近道である。
  型としては,
   1. 確認条項
    義務があることを確認
   2. 給付事項
    いくら支払う,何を渡すかなどを記載。日時,場所,方法等を具体的に記載する。振込手数料の負担についても忘れずに書く。分割金については,その旨も忘れずに書く。
   3. 給付事項(遅延損害金など)
    期限の利益喪失条項=「前項の支払を1回でも怠ったときは,債務者は,当然に期限の利益を失う。」
    元本の残金及びそれに対する遅延損害金条項=「第1項の金員から既払分を控除した残金及びこれに対する○年○月○日から支払済みまで年○割の割合による遅延損害金」
    書き方が分からなくなりやすいところなので,上の文言は丸暗記するぐらいがいいかもしれない。
   4. 清算条項
    「本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。」という文言。
    「本件に関し,」という文言を入れるかどうかは当事者の意思による。関係の一切を断ち切りたかったら入れないべきであり,今後も取引関係などを継続する可能性があるのならば入れたほうがよい。
   5. その他の条項
    「原告は,その余の請求を放棄する。」
    「訴訟費用は各自の負担とする。」
    この2文もだいたいいつも書くことになるので,丸暗記していい。

 2. 執行・保全
  執行や保全に関する小問が出る。
  形式としては,司法試験民事訴訟法のような,修習生と指導担当弁護士が会話していて,修習生の発言部分に穴が空いているので,その部分の穴を埋めるというものが多い。
  執行・保全に関しても白表紙を見るのが一番だが,もし本番でその内容が思い出せなかったとしても,とにかく民事執行法・民事保全法の条文をよく見て答えがないか探すこと。
  エッセンスをまとめると,
  ・強制執行をするためには,債務名義・送達証明書・執行文の3点セットが必要
  ・金銭債権の強制執行(金銭執行)の場合,不動産なら強制競売(or強制管理),動産なら動産執行
  ・不動産を求めるなら不動産等の引渡し,明渡しの強制執行,動産を求めるなら動産の引渡しの強制執行,作為・不作為を求めるなら代替執行or間接強制,担保権の実行なら競売or担保不動産収益執行
  ・保全は,仮差押え,係争物に関する仮処分,仮の地位を定める仮処分の3種類
  ・保全を申立てでは,被保全権利の存在と保全の必要性を疎明資料を添付して疎明する。
  ・金銭債権なら仮差押え。差し押さえる対象物は,不動産も動産も債権も可能。
  ・登記を求めている場合なら,不動産に関する登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分(その旨の登記がされる)
  ・建物収去土地明渡しを求めている場合なら,建物収去土地明渡請求権を保全するための処分禁止の仮処分(その旨の登記がされる)
  ・動産引渡しを求めている場合なら,占有移転禁止の仮処分(原則は執行官保管,債務者に使用を許す場合もある。正権限者や善意者に対抗できないが,執行後は悪意推定があることにも注意)
  ・仮地位仮処分はあらゆる内容が可能

 3. 立証
  立証するために必要な資料をどこで得るかというもの。
  登記事項や住民票,訴訟記録など。
  会社の登記などについては商業登記法,不動産の登記については不動産登記法に規定がある。訴訟記録については,民事訴訟法や刑事訴訟法及びそれらについての規則に規定がある。
  細かい規則などは六法に掲載されていないこともあるので,「立証活動」の白表紙を見ておくのが無難。
  もっとも,あまりに細かい知識を聞かれている場合には,そこまで正答率が高くなるとは考えにくいので,分からなかったとしても落ち込まないこと。

 4. 倫理・職責
  いわゆる弁護士倫理。とある弁護士の行動が記載されており,弁護士職務基本規定に抵触する行動がなかったかを聞かれるという形式が多い。
  問題となる行動及びそれについての規定→規定の趣旨→当てはめ→結論が書けていれば十分。
  弁護士職務基本規定は試験当日に資料として配られるので,丸暗記する必要はない。
  普通は,"クサい"行動が読んだだけで分かることが多い。ただ,その後何十年も職務基本規定と付き合っていく人が多いし,本番でパニックになったりしないように職務基本規定の緑の本は1回ざっと確認しておくのが無難だと思う。

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