【もうすぐ丘に花が咲きます】

「私が死んだら左の薬指を摘んで
丘の上の庭に埋めてください」

彼女は言います。

「再生することの無かった地面には
半月後には草が生えて
1年後に1羽の雀がやって来ます。」


「そこでその子は静かに羽ばたき飛んで行き
小さなたんぽぽが一輪咲くでしょう。」


「そのたんぽぽを摘んで硝子花瓶に
綺麗に着飾ってあげてください。」


「二年後の6月、初めの半月の夜遅く
月から黄金の砂塵が注がれ覆い輝きます」
「辺り一面がすごく綺麗なのよ!」

そして彼女はくくくと可愛く笑ったの


「そして翌日、やっと青い花が咲き乱れる事でしょう。」


「どうか私を無駄にしないで下さい
貴女にこの幻想を叶えてほしいのです。
もし咲かなくても泣かないで下さいね」


柔らかく永く生きてきたお婆さんのように
ふふふと音符のように笑いました。


ワタシはドクンと脈を打つのがわかるほど
布団の裾を握りしめながら静かに頷きました。


彼女の最後の日の明朝
16万のマンション
ワタシ1人、エレベーターの隣の部屋
ベットの上で段々明るくなる空を
白いマグに入った珈琲を飲みながら
背に壁挟まれ眺めました。

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