京大文藻12 表紙解題——美しい希望としての星

※京都大学ライト文学研究会2020年9月6日発行「京大文藻 第12号」の序文とした文章です。

 今回の統一題は「くじ引き」です。そこで、タロットカードの「星」の絵柄を基にして表紙を描きました。宝くじを買わない私にとって、身近なくじといえばおみくじや占いで用いるタロットなのでした。
 タロットの「星」は水瓶座と象徴的に結びついているのですが、本来「星」で水瓶を持っているのは女で、私が直接のお手本にした十九世紀の画家アングルの作品『泉』もそうでした。けれど私は表紙で水瓶を持つ者をイリオスの美しい少年ガニュメデスとして描きました。それは彼の持つ酒壺に擬えた黄道十二星座が水瓶座である為、また、次のような話の為です——二〇二〇年十二月に木星と土星が宝瓶宮の位置で重なって見えます。一般に惑星同士が重なり合うことを合というのですが、土星はゆっくり動く惑星なので、木星との合は大体二十年に一度のことです。実はこれまで約二百年もの間、木星と土星の合は、牡牛座か乙女座か、或は山羊座の、四大元素で“土”の星座といわれている場所でしか起きていませんでした。ところが、向こう二百年は、今年の水瓶座を皮切りに“風”の星座の位置でのみ、木星・土星の合が起こることになるのです。占星学ではこの現象を特別な意味をもつものとして解釈します。二百年間に渡って世界の価値観が大きく変化する、“土”から“風”の時代へと移り変わるその境目を、私たちは正にいま生きています。“土”の時代の終焉は、どのような形で我々の目の前に顕れているでしょうか。二百年前の“火”から“土”のエレメントへと世界が移行していった時期は、ちょうどアングルが『泉』の制作に取り掛かった頃だといわれています。その時代を生きた人たちはどんな実感を抱いていたのでしょう。叶うなら彼らの話を聞いてみたいものです。
「星」は正位置で出れば「希望、ひらめき、明るい兆し」を示します。来る新時代の幕開けに祝福あらんことを祈って序文といたします。

丑三明美

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