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 私の今日までの人生で一番大切なひとは、友達にも恋人にも、兄妹にもなれるオールラウンダーなひとである。何度だって言う。恋人にもなれると言ったが、恋ではない。煩ってなどいない。強がりで言っているのではない。優しく包み込んでくれる、特別だと言ってくれるそれが、恋人への愛に似ているなと、身勝手に思っているだけである。愛おしくて愛おしくて、何度言葉にしようと溢れて留めることが出来ない。日々、私に新しい優しさをくれる、私の大事なものを一緒に大事にして温めてくれる、そういうひと。兎にも角にも、顔が一等好きである。声も咳払いも、方言も、全てが好きだ。存在が愛おしい。尊敬している。


 彼は、初めて会った日の会話の調子や私の印象、その時の彼自身の気の持ちよう、一緒に行った場所、今までのちょっとした会話、全て憶えている。そういえば、昔の話をしていて「そうだっけ?」なんて、言われたことがないな。


 なぜだか急に、「初めて会った日は緊張したよ、想像以上に顔面は強いし」と彼は話し出す。「俺は普段お喋りな方ではないけど、ういもじゃん。俺で大丈夫かなって思ってた」大丈夫だった、大丈夫でしかなかった。「寧ろ俺じゃないとな!」すぐ調子に乗る。その通りなんだけどね。
 続けて彼は、「いつも同い歳の気分でいる」と言った。本当は、彼と私は一つ違いである。誤差みたいな歳の差。それでも一応彼が歳上であるが、それを感じたことがない。勿論、良い意味で。

 「歳下に見える、歳下だと思ってた」言われる度に自己嫌悪する。「ああ私ガキなんだ」と、直すつもりもないくせに思う。同時に、それをいま私に伝える必要はあったのだろうかと、だからなに?と思う。「歳下みたいな所もあって可愛いね」であれば分かるが、単品の、それも唐突の「歳下みたい」だなんて、馬鹿にされているとしか思えない、私はね。

 「よく実年齢よりも歳下に見られるのだけれど、子供っぽいかな」と私が聞いた時、「たまにあるかもしれないけど、それも含めて ういだからな」と答えた。彼は、なんかそういう、"こう言えば満点!"みたいな、模範解答集のようなものでも持っているのだろうか。


 「なんで近所に住んでないんだろうね」と、よく言い合う。出会ったばかりの頃から、「家が近ければ毎日のように会ってるのにね」と現実を恨んだ。車で二時間の距離。何度も「一緒に住まない?」と提案したことがある(「それってプロポーズじゃん」と毎度スルーされている、違うだろ)。

 考えてみれば、初めて会ったその日からもう、特別仲が良かった。未だ、お互いに一つの違和感も欠点も感じたことがない。「嫌と思ったところもないし怒ったこともないよなあ」と、口を揃える。欠点に関して言うと、"嫌いなところが無い"というより、"それも含めてこの人だから"と思っているのが正しいのかも。こんなにも波長の合う人間、なかなか、もしかしたら生涯、出会う事はないだろう。

 話していて、特に こういったメッセージのやり取りで、言葉選びの違和感や腹が立つこと等々のないことが、至極大事だという持論がある。少しでも引っかかるところがあるのなら(メッセージだと冷たく感じる!だとかそういうのではなくて、例えば、語尾に必ず "笑"が付いていて無理とか、"なんかごめん"を使うから無理とか、そういう、本能的な拒絶)、それは、波長が合っていないということには ならないだろうか。だって、私が無理だ〜合わないわ〜って思った点を、気にしない人も居るからね。何が言いたいかというと、顔を合わせていないことを言い訳にしてはいけない。顔を合わせていないからこそ、言葉だけが"その人"として現れる。たかが文面、されど文面。


 悩みを聞いてもらった時、話の締めに「どうでもいい話をしてごめんね」と言ってしまったことがある。しかし彼は「どうでも良くないし、どうでもいい話くらい いくらでもしていいんだよ。なんで謝るんだよ」 と言ってくれたのだ。その後ありがとうと伝えたけれど、本当は、ごめんでなくて、ありがとうだけを伝えたかったな。「聞いてくれてありがとう」だけで十分なのに、余計に困らせてしまうじゃないか、ごめんだなんて。

 この話よりもっと前、別件で私が謝った時に彼は、「一緒にいる嬉しさより申し訳なさが勝ってしまうから、感謝しつつ幸せになれ。何も申し訳なく思わなくていい」と言った。やり取りを振り返ってみると、いつも「謝るな!」と言われているな。そろそろすぐ謝るのやめないとね。

 何故こんなにも、柔らかくて温かな言葉が次々と彼は出てくるのだろう。性格が素直で温かい人だから、というのは分かっている(しかし彼は他人に興味がなく、普段は無口で割と冷たい人間のようだ)が、小説を好むだとかそういった人間でないのにも関わらず、言葉を豊富に持っている。



 容姿や性格を褒めると無駄に謙遜して自信がないくせに、「ういの相手は俺しか務まらないよな!」と訳の分からない所に自信過剰なところ、至極好きだからそのままで居て。他の誰に見せるでもない、その秘めたる優しさと闇をもったままのあなたで居て。また会う日まで、私にそのおふざけしている姿を見せてくれる日まで、明くる日も明くる日も、どこかで息をしていて。私が代わりに泣くから、いつも笑っていて。


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