生と死の重ね合わせ
🎞 story
そもそも、「シュレディンガーの猫」とはオーストリアの理論物理学者エルヴィン・シュレディンガーが1935年に提唱した思考実験である。
彼は「シュレディンガーの猫」でいう、"猫"で
思考実験の対象。そして彼女はシュレーディンガー(研究者)であり魂の情報でもある…と仮定する。
Aメロでは、魅力的な彼女に惹かれるように感情を
操作されている。
そしてBメロでは、眩惑していた彼女が消えてしまう。(これは彼にとって「不在」が在る状態。)
深い喪失感を味わうが、サビからは幻惑をみているよう。ゲームのバタフライエフェクトのように様々な分岐を試して(輪廻転生)、再びサビではついに抜けたと錯覚するが それと同時に大サビで失ったことを理解する。
心を幻想に囚われて、生と死が重ね合った状態になった彼の物語。
他意のない思考実験として考えているが、実は彼女の一方的な感情から行われたものだとしたら。そういう意味では実験というより、未来のシュミレーションのようなものとして捉えたいが、物語の彼と現実の彼女の世界は交わらない…。
また、これは彼女が自分自身を情報として扱った実験と考えているが、 第三者を研究者として彼女には魂すらないと仮定することもできる。その場合、彼女は人工知能なのではないだろうか。
長くなってしまったが筋道の通る仮説をまとめる
「彼女(シュレディンガー)による 彼(猫)を使った思考実験」、つまり『彼』は彼女の生きている世界が創り出した『物語の世界(二重世界)の主人公』とする。
彼女は彼が美しい自分に惹かれるように設定してシュミレーションをすすめるが、彼は徐々に自分が存在していないことに気付くのではないか。(まるで早瀬耕さんのプラネタリウムの外側のようなイメージ)
なので、彼女がどちらの世界にも存在することや、彼が幻想に囚われていることが、タイトルの由来ではと想像した。
🌿 歌詞
ここからは歌詞を分析していく
彼女はまるで蝶のよう
蠢く街のスクランブル
彼にとって彼女は、蝶のように魔性の魅力を持ちつつ 掴むことのできない存在なのだろう。
単語一つ一つに注目する。
ギリシャでは死者の口から『蝶』が出ていく絵やレリーフがあり、それを"人の魂"と例えていた。
『蠢く』とは芋虫がはったり動いたりしていることの表現なので、芋虫→蝶、つまり人→魂になることの隠喩ではないだろうか。
『スクランブル』とは信号の意味で"符号化された情報"とする。
ここで少々飛躍してまとめると、歌詞は 蝶=スクランブルとなるので、魂=符号化された情報、つまり彼女らを情報や人工知能と考える。
瞼の裏の残像
気づけはしないサブリミナル
瞼の裏、なので『残像』は"光"と捉えるのがオーソドックスだろう。
『サブリミナル』は識閾下という意味。
つまり彼女が、サブリミナルなスクランブル(識閾下のサイン)を送っているのか、またはそれ自体と考える。
欲望という名の 鱗粉を撒き散らし
0と1の狭間へ 消えさっていく
『鱗粉』とは①既に死んでいる細胞 であり、②飛ぶためのものだ。また、③毒性があるものもある。
『0と1の狭間』は数にすると1垓分の1で、所謂虚空だ。虚空とは、ギリシャ神話で光も形もないカオスのことで、混沌ともいわれる。
とするとここでは"輪廻転生"を表していると捉える。
"毒を撒き散らす"というのは前述した"識閾下のサイン"の形容か、欲望を毒と比喩しているとも考えられる。
プシュケー 空洞だけが
その胸に棲みついた
取り憑かれてしまった
ここで蝶を人の魂と解釈することが『プシュケー』であることから前述した仮定を裏付けられる。
意味の補足として、死者の魂(霊魂概念)や存在の原理がある。
『空洞だけがその胸に棲みついた』は"心に穴があいた"、つまり喪失感を表していると考える。
彼は妄想にとらわれ、空虚であるのではないか。
袖振り合って 多生の縁でいいって
無数の分岐こえて きみを呼ぶから
でも本当は知らない
彼女の名前も声も
どんなふうに笑うのかさえも
シュレディンガー・ガール
『袖振り合うも多生の縁』ということわざがあり、人との縁は偶然ではなく前世からの深い因縁によるという意味。
『無数の分岐』とはシュレディンガーの猫の量子学の考え(未来にはいくつもの可能性があり、どの可能性が実現するかはサイコロのように確率できまる/バタフライ・エフェクト)のことではないだろうか。
きみとは魂で繋がっていて、器がなくても見つけられるはず、というように解釈した。
しかし、『でも本当は』というところで、記憶が曖昧になっているように思える。
彼は幻想の虜
嘲笑う衆愚をものともせず
数えるのをやめたころ
彼女が囁きかけたような
交わるはずなかった
それぞれの点と点が
触れた刹那 生まれた
ウロボロスが
蝶のような美しい彼女の虜になってしまった彼を『衆愚』は『嘲笑う』のだろう。
『数え』ていたのは無数の分岐か。
『ウロボロス』は様々な時間的解釈があると思うが、輪廻転生を前述したので ここでは"生命をたどる永遠に続く周期的過程の象徴"とする。
量子のたなごころで
彼を包み込み
生存線の先へと
異空間へ行って
たぶんこっちって解って
彼女のかおりがして
手を伸ばすから
『たなごころ』は"掌"で掌握や支配すると捉える。シュレディンガーの実験はそもそも原子の崩壊で死をつくりだすので、ここは生きたまま異世界に行ったことを意味するのではないだろうか。
でも本当はもはや
身体 解き放たれたの
光よりはやく飛ぶから
シュレディンガー・ガール
(身体から魂が解き放たれているので理屈など必要ないかもしれないが、物質や粒子が光の速度を超えられるのは真空中か水中だ。)
ユーレカ 狂ったように笑って
暗い部屋で踊って 彼はわからない
『ユーレカ』はギリシャ語の感嘆詩で見つけた!わかった!などの意。これは物語の舞台がギリシャであることを示しているのではないだろうか。
『暗い部屋』にはもう光はないだろう。
ああ 本当はシャングリラ
すべてが解き明かされて
眠るように 空を見上げた
シュレディンガー・ガール
『シャングリラ』はどこにもない場所を指す。
良い意味ではあるが、自由主義的・牧歌的な理想郷ではない。なので、『ユーレカ』と『彼はわからない』で拮抗しているのではないだろうか。
『眠るように』とは穏やかな最期の表現にしばしば使われる。
そして、敢えて『空』を『見上げた』と表現しているので生きてることがわかる。
つまり彼こそ、生と死の重ね合った状態にあるのではないだろうか。