過剰診断とは何ですか? 何ではありませんか?

過剰診断とは、

それによって自覚症状が現れたり、死んだりしないような病気を、その病気であると診断する事

です。これは、次のようなものではありません

  1. 誤診

  2. 誤陽性(偽陽性)

1は、たとえばAという病気に罹っているのに、それをBという病気であると診断する事です。つまり、Bであると誤って判定しています。だから診。

2は、Aという病気を持っていないのに、その病気があるだろうと判定する事(陽性)です。たとえば、超音波検査などの1次検査で陽性判定が出た後、細胞診などの精密検査で陰性(その病気で無いであろうとの判断)が出た場合、そしてその陰性判定が正しかったとすれば、1次検査の結果は誤陽性だった、と言えます。

誤診は、病気である/無い と診断を確定するプロセスでの誤りですが、病気と確定させる判定も陽性の一種であると考えると、広い意味での誤陽性とは言えます。ただし、ある病気と判定してそれに応じた処置を実行する事が被害をもたらしたり訴訟に発展したりする場合があるので、最終判定における誤陽性を誤診と表現し、特別の用語として設定しておくのは重要な事です。

元に戻って、過剰診断誤陽性では無いです。だから誤診でも無いです。過剰は誤りを意味しません。ある病気と診断してそれが当たっている事を正の診断と表現するならば、

過剰診断は正診である

と言えます。ここは重要です。

  • 過剰診断は誤診である:そもそも発見できていない

  • 過剰診断は正診である:正しく病気を発見できた

上記の立場は、同じ語を全く逆の意味で捉えているので、そういう論者同士では、絶対に議論が噛み合いません。

再び、過剰の意味です。これは、誤ったを意味しません。

  • 余計な

  • 余分な

このような意味です。つまり、それでは無いものと解釈してはなりません。それだけど見つけなくて良いものと解釈すべきです。それ、とはもちろん、対象とする病気を指しています。

がん検診の過剰診断で、過剰診断とは、

  • がんが成長しない

  • がんの成長が遅い

ものを見つける事とされる場合がありますが、これは、正確ではありません。過剰診断とは、

  • その病気による症状が出る前に、他の原因で死ぬ

上記のような病気を見つける事だからです。たとえば、進行の早い病気を無症状の時に見つけられたとしても、症状が出る前に、交通事故や災害、あるいは別の致命的な病気に罹って死亡したら、それは過剰診断です。事故や災害は偶然的に起こるものでは?と言われそうですが、それを言ったら病気も偶然的なものです。病気にしろ災害にしろ、その起こりやすさは確率的なものとして、数値によって表されます。死亡というイベント(事象)について、

  • 対象の病気

  • 交通事故

  • 災害

  • 別の病気

これらによる死亡の起こりやすさは競合します。また、それぞれの原因にとって、他の原因は他死因です。交通事故や災害によって死亡する起こりやすさは、それらへの対策などで変わります。たとえば、自動車の無い地域で過ごしていれば、その間は自動車事故で死亡する起こりやすさは極めて小さいと言えます。自動車の交通が発展しない地域では感染症の流行があるとか、交通量が多い地域では大気汚染があるとか、そういう所も考える必要があります。環境によって変わってくる訳です。

ここまでを踏まえた上で、

  • がんが成長しない

  • がんの成長が遅い

これらの病気に罹った時、過剰診断になりやすいとは言えるでしょう。前者は必ず過剰診断になります。なぜなら、成長しないなる表現は、症状が出ないを含んだものだからです。成長しないが症状は出る、といった言い回しを許容するのでも無ければ、成長しないものを見つけたら、それは必ず過剰診断です。当然、成長しないというのは仮想的なものです。症状が出るまでの期間が、いまの人間の寿命からすれば無視出来るほど遥かに長いであろう、という想定が含まれます。

いっぽう、成長が遅いものを見つけたら、成長する間に他の競合の原因による死亡が起こりやすくなるので、見つけたらそれは過剰診断となるだろう、といった予測が立てられます。余命の短い高齢者に対する検診が問題になるのも、それが念頭に置かれています。余命が短いとは複数の死因による死亡の起こりやすさが高まっているのを意味している訳です。

ある用語について論争的に議論がおこなわれる場合、その用語の定義をまず押さえておかないと、全く建設的なものになりません。きちんとした定義を共有し、そこから論点を適切に指定して議論していくのが肝要です。


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