君の夢を見る

 

「この街を離れることにした」
 と、君は言った。
 君がいない日々が当たり前になってきているけど
 ふとしたときに、そっか、いないんだ。
 と思い出させる。

 すぐ会える距離にいたのに
 ぼくらは、なんとなく、たまにしか会わなかった。
 いつでも会えたけど、たまにしか会えなかった。
 が正しいのか。

 君はいつも、ぼくのだめなところを叱ってくれた。
 君が言うことはなんとなく、正しいと思っていた。
 そして君に何かあったときのために
 僕は存在していると思っていた。
 どこかで最後はぼくを選んでくれると思っていた。
 なんとなくぼくのそばにいてくれると思っていた。

 全部、ぼくの勝手な思い込みでしかなかった。

 

 最近、君のことをよく思い出すようになって、
 ついに夢にまで出てくる。
 昔、いっしょに行った場所、
 いっしょに聴いた音楽、
 お互いにすきなもの、お互いに言えなかったこと、
 いや、ぼくが君に言ってほしいと思っていたこと。
 現実では絶対にないってわかっていたことも。
 夢の中では君とふたりでいられる。
 夢で会っては、想像の日々を過ごし、
 目が覚めると、後悔がぼくを襲う。

 そんな繰り返し。

 もう戻れなくても、この先同じ日々を
 過ごすことはないとわかっていても
 夢の中だけでいいから、
 同じ気持ちだったって言ってほしい。
 自分の気持ちに気づいていたのに、
 気づかないふりをして
 言えないまま、時間が経ちすぎてしまった。

 そばにいるけど、いっしょにいない距離が
 ずっと続くと思っていた。
 どこかのドラマみたいに。

 今更戻ってこないものを抱きしめて、
 今日もぼくは眠るしかないのだ。

 暑くて寝苦しい夜も。



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