揺れる
夢で君は、「海に行こう」とぼくに言った。
何も喋らない車の中で君が吸う煙草の煙がゆらゆら揺れていた。
日が昇りかける朝の海へ。君の目に映る海がきれいだと思った。
ぼくらは何も言わないまま手を繋いでいた。
ー
あれからどれくらい時間が経ったんだろう。
ぼくはまだ、君と過ごす夢を繰り返しみている。
全然君の顔は思い出せなくて、ぼやけたままだけど。
君はどんなふうに笑っていただろうか。
君が吸っていた煙草はどんな匂いだっただろうか。
君と最後に話したのはいつだった?
だんだんと記憶が遠くなっていくことを実感するばかりの日々。
あたたかかった日々もだいぶ前のこと。
あっという間に冬がきた。君の住む街に雪は降るのかな。
コートのポケットに手を入れて、ぼんやり考えてみる。
こんなにも冬は静かだっただろうか。
ー
気づいたらぼくはひとりで海へ向かっていた。
夢の続きは見れないとわかっていたけれど。
吸えもしないのに煙草に火をつける。
灰色の空に煙が揺れていた。
息が苦しいのは煙草のせいなのか
それとも、
.
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