カノープス
ただ、日々を残したいわけじゃない。
「君に近づきたい」と思ったのが最初だった。
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ぼくは何をやっても自分に自信がなかった。
成功してもこころから喜べることなんてなくて
いつも誰かに指を差されている気がしていた。
だからぼくはひとりでいた。
誰かに傷つけられないように。
自分を傷つけないように。
できるだけ、この世界で場所を取らないように。
できるだけ、この世界から離れられるように。
いつも真っ暗な空ばかり見ていた。
いつも真っ暗な空ばかり写していた。
ぼくの日々も写真も、真っ暗だった。
それが当たり前だと思っていた。
そんなぼくの日々に、突然、君が現れた。
ぴかぴか、やさしく光っていた。
ぼくはあっという間に君に夢中になった。
眠れない日も、きみのやさしい光に包まれていると
苦しかった心がほどけた。
君がいない夜はなかった。
君が見えない日はなかった。
君は、とても明るい星だったから。
自分に自信がないくせに欲張りなぼくは、
気づいたら君に手を伸ばしていた。
届くわけもないのに、それでもぼくは手を伸ばして
ずっと空を見ていた。
どれだけ真っ暗な空でも、
君は、きみだけは、こんなぼくにも見えるよう
ずっと輝いてくれているから。
もっと君に近づきたいと思った。
もっと君を知りたい思った。
いつか君に知ってほしいと思った。
そして、君のことを写したいと、思った。
-
その日からぼくが写真を撮る意味が変わった。
全てはいつか、ぼくが君の写真を撮るために。
そして、君の写真を撮ったあとも、
今までのことを忘れないように。
君を追いかけてずっと走っていた日々も
ずっとたいせつにできるように。
どんなに真っ暗な日々でも
ぼくは、写真を撮ろうと思った。
君にいつか会いたくて。
一瞬でもいいから ぼくのために放つ光を
焼き付けたくて。
君が理由なんておかしいかもしれない。
それでもぼくは、君を撮りたいと思ってしまう。
ぼくの星を追いかけてしまう。
誰もわかってくれないと思っていた。
ぼくが一番、ぼくをわかっていなかった。
終わりたいと願っていた僕の映画は
まだはじまったばかりだ。
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