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手足の長いひとでした③

そう。

簡単に終わらせてあげない。

あなたが大切にしたいじかんなら

わたしは、それごと大切にしてあげるの。

怯えなくていいのよ。

怖がらなくていいのよ。

言葉なんていらないから

わたしの肌からそれを感じればいい。

やさしく

やさしく

わたしは彼を

彼ごと包み込む。

ふと、聖母マリアかよ、、、

って自分につっこむ。

そんな

清らかさなんて持ち合わせておらず

そんな

大義名分もわたしにはない

つーか、いらないし。

清らかさがなんなのか、わたしの辞書には必要もないし。

ただ、

包み込んであげたいと

思うモノを

わたしは、包み込むのだ。

唾液さえ

わたしの温度を運ぶ。

わざと音たてるいやらしいわたしもいて

理性と本能は仲良しだと

改めて思う。

彼のカラダは、素直なので

限界が近づくと

腰を浮かせるの。

かわいいひと。

わたしに降参すればいいわ。

きっとわたしも

あなたに降参するから。

わたしを彼を見下ろした。

この眺めは、好きだったりする♡

彼の腰骨とわたしの腰骨が

密着する。

ゆっくりさと

激しさが同居する

パラドックス。

ギュッとしていたものが

少しずつほぐれていく。

ほぐれていくのは

彼なのか

わたしなのか

わからないじかんに

ただ、

ただ、

存在する

2人の温度。

お互いでお互いを確かめてる

ベッドの上の2人。

彼のカラダから

彼の肌から

つながってるところから

行き交うものが滲み出るものがある

僕をみてほしい

僕という存在があることをみてほしい

僕だけみてほしい、、、、

彼の叫びが伝わってきた。

声にならない彼の心の叫び。

母親らしき女性が赤ちゃんをだっこしてる。

小さな男の子の彼からその2人までの距離は遠く

そして彼のいる場所より、

そこはカラフルにみえた

そんな残像といっしょに

伝わってくる彼の奥底からのメッセージ。

"僕だけみてほしい"


そっか、

やっと、素直にいえたんだね。


じゃぁ、わたしからあなたへ。

『わたし、

いま、

あなただけ、みてるよ』


その言葉を

わたしが発した途端


彼のものから

花火のようなものが打ち上がる。


わたしは、

花火よりは熱くはない

なまぬるいものを

全身で受け止め、漂わせた。


さみしかったんだね。

僕をみてくれてないと感じたんだね。

大丈夫。

みてるから。

わたしの瞳には

いま、あなたがうつってるから。

大丈夫よ。

ちゃ〜んとうつってるよ。

安堵したような液体たちと

安堵したような彼の顔。


ちいさな男の子と

手足の長いあなた

どちらもあなた。

どちらも笑っていてほしいな、と

わたしは、こころの中で思った。


あ、笑った。

目尻を下げて笑った。

また、照れくさそうにする。

長い腕に

引き寄せられ

彼の胸元と脇のあいだに

すっぽりとおさまるわたし。

彼の安堵感は

わたしにまで伝染する。

なんだか、眠くなるくらいだわ。

でも

このじかんが好きだったりする。

目があったら

ふふふって笑ったり、

ほっぺたさわったり、

おしゃべりしてないけど、

おしゃべりしてるみたいなんだもんね♫

すこし、ぼーっとしながら

彼の中にあったものは

わたしの中にもあったものなのかもしれないなー

って思う。

カラダを重ねることによって

彼とわたしが共有したものたちは、

安堵感というものに

生まれ変わっていき

わたしたちは、うとうとしながら

その

安堵感に包まれた。

やさしい温度だねー。。。。





プルル、プルルと

部屋にコール音が2回鳴った。


時間ですよーの合図。


わたしは、ゆっくり起き上がり

彼に身支度を促した。


お部屋の時間は、絶対なの。

わたしがこの部屋にいる間、唯一守るべきもの。

唯一、自由にできないもの。


忘れ物がないかをチェックして

わたしとの時間の交換代、1万円札7枚を受け取り


彼に手を振る。


なにか言いたそうな顔してるなー。


どうしたの?

って聞いたら


来月はこれないんだ。


って。

申し訳なさそうに彼が言う。


H県に赴任が決まったらしい。


へー。そうなんだ。

体に気をつけてね♡

いってらっしゃい♡

いつもは、

またね♡

の帰り際のあいさつは、

いってらっしゃい♡

に、なった。


君を忘れない

と言う彼の瞳は、

嘘は言ってない。と思う。

でもさ、わたし、

彼は、わたしの余韻だけ、持ち帰ればいいと

思ってる。

だって、儀式も無事終わったことだしね。

温度と共に彼はヴェールとなり

わたしを包んでくれることに変わりはない。


だけど、

にこって

笑うだけにしたの。

わたしの表情をみて、

彼はわたしの瞳に向かってうなづいた。

そして、目尻を下げてほほえんだ。

それが、わたしがみた彼の最後の笑顔。

パタン

と扉を閉めた。


さーて、

お片付けするかー。

次のコールが鳴るまでに

ベッドメイキングをしなきゃね。

彼はね、


手足の長いひとでした。

そして、目尻を下げて笑うひと。




手足の長いひとでした①〜③

#協奏曲ものがたり #手足の長いひとでした












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