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優しい灯りと金木犀

 「不在の存在感」とでもいうのだろうか。

 いるはずの人がいない。あるべきところにない。会えないことは分かってはいるが、風が吹き抜けるように心を持っていかれることがある。随分と慣れたけれども、三回忌を過ぎてもなお、チクリと胸が痛む。

 祖父は、分かっていたのかもしれない。

 「ゆっくり休んで、気持ちよくすごしてね。」
 人工呼吸器越しにかすかに聞こえた声。
 帰り道に金木犀の香りがした。祖父の倒れた夏を過ぎ、秋から冬へとたしかに歩んでいた。

 祖父に愛された遺品は、優しい光を放ち、今夜もわたしの部屋にある。

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