姉貴の話

僕ね、5つ上の姉貴がおって、その姉貴の話なんですけど、

姉貴は社会人で、京都で一人暮らしをしながら働いてるんです。で、その姉貴の日頃の楽しみっていうのが、会社からの帰り道に川沿いを歩いて帰ることらしいんです。川沿いって言っても鴨川とかあんなでっかいのんじゃなくて、街中を流れる細い川、用水路なんかな?そんなんで、京都らしくぼんぼりみたいな街灯が立ってて趣があるんだとか。そんで、仕事が終わって最寄駅からその川沿いの道をのんびり歩いてると、一日の疲れが取れるように感じるらしくて。
ちょうど4年前ぐらいの、秋も終わり頃。その日は金曜日で週最後の追い込みをかけて残業していて、最寄駅出たんが9時とか10時とかになってたらしいんです。あたりは真っ暗ですけど街灯の明かりで道は照らされてるし、ちらほら人も通ってるから特段怖いとかもなく、今日はゆっくり寝るぞとか思いながらいつものように帰ってたんです。しばらく川沿いを歩いてたら、あれ、おかしいなって。前から歩いてくるあの女の人、さっきもすれ違わへんかった?って。でも、濃いめの茶髪でラフな格好したどこにでもおるような女の人で、まあ気のせいやろってそのまますれ違って歩き続けてたんです。そしたら、また、その女の人が前から歩いてくる、今度こそ見間違いじゃない、さっきの人やって。おかしいなあ不思議やなあって思いながらまたすれ違って歩き続けて。案の定、また、前から同じ女の人がやってくる。どうやら向こうも同じようなことになってんのか、お互いチラチラ相手のこと見ながらすれ違う。ここでね、姉貴らしいなというか、僕とは正反対の肝の座ったやつなんですけど、今度すれ違った声かけてみようって、そう決めたらしいんです。そんで歩いてたら、また前からその女の人が歩いてくる。ちょうどすれ違う時に、「ちょっと」って。そしたら相手さんはビクッてなって、どうやらやっぱり向こうも同じような状況になってて、何回もすれ違う女(姉貴)が急に声かけてきたからびっくりしたんだとか。とは言ってもお互い相手はどうやら人間らしいってことは確認できたんで不思議やねってお互い喋りながら、しかしどうしようもないから、ほなって別れたんです。でもやっぱり、それからまた歩いてたらその女の人が前から歩いてくる。今度はお互いまた会いましたねみたいな感じで、どうなってるんですかねってまた立ち話になった。この話の何が1番気持ち悪いって、姉貴も女の人もちゃんと道は進んでるんです。全然別の場所で同じ人間に会って、お互い確認したら全く同じ会話をしてるんです。姉貴もだんだん君が悪くなってきて、だって自分じゃない何かが自分と同じ経験を知らないところでしてるんですよ。それでこっから一人で家帰るの怖いなってなって、相手の女の人も同じくちょっと怖がってて。それで、2人で一緒に歩きましょってなったんですけど、もしこのまま川沿いを歩き続けて、それでまた前の方から…って考えるとあまりにも怖かったんで、ちょうどすぐ横入ったところにファミレスあるからそこは入りましょって。それで2人で、すれ違うなすれ違うなすれ違うなって念じながら、何事もなく無事ファミレスまで辿り着いたらしいんです。
明日も休日やしって2人で酒入れてそのまま潰れて、気づいたら外明るくなってて、たぶんもう大丈夫やろって別れて帰ってきたらしいんです。で実際もうなんともなくて良かったねって。
ただ、ちょっと気になることがあったらしくて、不思議なことがあったとはいえファミレスに入るまでは最寄駅からまっすぐ歩いてたはずやのに、レジに出した伝票の時刻が3:35になってたらしいんです。


以上、創作、ありがとうございました。

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