シャンプーの話

シャンプーをしていると誰かの目線を感じることってありませんか?私はあります。小さい時に見たホラー映画で、シャンプーをしている主人公を鏡の中から霊が覗いているシーンを見て以来、シャンプーをしていると視線を感じて仕方がありません。でも、とあるお笑い芸人が「シャンプー中に感じる視線は順番待ちしているリンスの視線」って言っているのを聞いて以来、多少は気分が楽になっていました。
数年前です。その年の春も、例年のように長野までスキーに行きました。もともと客の少ないホテル(穴場って言うんですか?)に泊まり、シーズンも終わりかけで実質貸切状態を楽しんでいました。そのホテルの好きなところは、露天ではないんですけど、大浴場の壁一面がガラス張りになっていて、湯船に浸かりながら外の景色を見ることができるんです。ただ、夜は明かりがないので真っ暗で何も見えないんですけど。スキーを存分に楽しんで夜、私は部屋でテレビを見ている父を残して大浴場へ行きました。脱衣所でおじさん2人組と入れ違い、浴場に入ると誰もいず完全に独り占めでした。しかし、広い浴場にひとりというのも薄ら寂しいもので、右手のガラス張りの壁の向こうの暗闇も不気味に感じました。
そしてシャンプーをしていると案の定、視線を感じる、気がします。浴場に入った時から少し不気味さを感じていたので普段より怖く、この視線は順番待ちしてるリンスこの視線は順番待ちしてるリンスとひたすら自分に言い聞かせていました。急いでシャンプーを流して顔を上げると、鏡に映っているのは自分、もちろん霊なんていません。…あれ?ばっと振り返ると、浴場中のシャンプー、リンス、シャワーノズル、全てが自分の方向を向いていました。幽霊が見えたとかではありませんが、その不思議な状態があまりにも恐ろしくて、慌てて部屋へ戻り布団に潜り込みました。そのあと特に何かあったわけではありませんが、その年は心からスキーを楽しむことはできず、翌年からは別のホテルに泊まるようにしています。

以上、創作、ありがとうございました。

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