#2023年Vtuber楽曲10選 Part 2
前書き
これの続きで、合計22曲のうち11~22曲目を紹介します。数が分かりやすいよう数字を振っていますが順不同です。
本編
11. 9Lana - 乙女を頬張ってよ
特にバーチャルを自称している人ではないが、好きなシンガー9Lanaさんのオリジナル曲。浮遊感のあるシンセポップの上を、9Lanaさんが幼く愛らしい歌声で泳ぐようなメロディを辿っていく。曲こそシンプルなものの、ちょっとしたフレーズの中にも味わい深い歌唱表現が織り込まれていて何回聴いても新しい発見がある。今年最も繰り返し聴いた曲の一つ。
12. 아야츠노 유니(Ayatsuno Yuni) - 내꺼 하는 법(How To Be Mine)
韓国のVTuber아야츠노 유니(Ayatsuno Yuni)さんのオリジナル曲。サビのダンス(MVは今をときめくodykさん)がTikTokで大バズりした。オルガンやピアノの強い音色が軽快なエレクトロポップに落とし込まれている巧みさや、ハイファイでしっかりした一個一個の音色が飽きさせない。
13. Shiki Miyoshino - hanahaki syndrome
Sonyの英語圏向けバーチャルタレント事務所PRISM Project所属で、星の数ほどいるバーチャル圏の中でも指折りの歌唱スキルと恵まれた声質を持つVTuber、Shiki Miyoshino(美吉野しき)さんのオリジナル曲。伸びやかな高音のロングトーンと明瞭な発声という持ち味が存分に発揮された、ゴシック調のシンセロック。
14. Kilia Kurayami - Lonely In The Water
アメリカのVTuber事務所EIEN Project所属の深海魚VTuber、Kilia Kurayamiさんのオリジナル曲。以下に動画のクレジットを引用する。
つまり作詞作曲歌唱MIXまで全て自分で手掛けているということになる。このシティポップ調の楽曲の特徴はとにかく一つ一つの音がクリアで太いことで、音を聴く限りギターとベースは自分で演奏している可能性が高い。その上でソングライティングはしっかりしていて繰り返し聴ける強度があるのだから、凄まじいマルチタレントぶりに驚くしかない。
15. 星街すいせい - レクイエム
ホロライブ0期生、彗星のように現れたスターの原石ことアイドルVTuberの星街すいせいさんが、今をときめくボカロPKanariaと組んで出した楽曲。『KING』『アイデンティティ』などの音楽性に通底する不敵で力強いメロディが、星街すいせいさんという気高く力強いシンガーの資質を100%引き出している。こういう曲がもっとたくさん聴きたい。
星街さんと言えばジャジーなバラード『デビュタントボール』も圧倒的によかった。こういったキャッチーさが控えめかつミドルテンポの楽曲を出せるということ自体が、この人の勝ち得た地位の高さの象徴のようにも感じる。
16. 長瀬有花 - Sleeper's Store
Vaporwave以降のポップミュージックをリリースするレーベルLocal Visionの作家たちと、"だつりょく系アーティスト"を自称するVsinger長瀬有花さんの共作にして傑作アルバム『OACL』収録曲。作曲はシティポップと90年代NJSの中間地点のような音楽を発信する「オリーブがある」。タイトル通り夢の中のアパレルのような、古いゲームのショップBGMのような、どこかノスタルジックなNJSサウンドと、長瀬有花さんの少女らしい軽やかで柔らかい歌唱がとてもマッチしている。
17. 二人静すむ - 【檻の中の抗生物質漬けの豚】
リミナルバーチャルYouTuber二人静(ふたりしずか)すむさんのオリジナル曲。今年出たVTuber楽曲の中でもひときわ異様だった。
硬質なエレクトロニカ/ミニマルテクノの上で、二人静すむさんの幼げな声が"健康で幸福な生活"を痛烈に皮肉った詩を読み上げる。動画概要欄に"Fitter Happier"と記載があるように、詩はRadiohead "Fitter Happier"の日本語訳である。無機質なトラックと、愛らしくも情感が抜け落ちたポエトリーリーディングの温度差、そしてなぜそれを選択したのか意図の読めない詩はまさにliminalな不穏さを帯びている。鳩羽つぐ以降の空間表現をLiminal Space・音楽と接続したという点でとても興味深い一曲。
18. まゆり - グランド・スラム
Vsingerまゆりさんのオリジナル曲。埃っぽいブレイクビーツを敷いてあるのが印象的な性急なエレクトロスウィングで、要所要所で差し込まれるハイハットの五連続の刻みと、2番Bメロの終わりから始まるダブステップ→ハウスの展開がとてもかっこいい。
19. YSS - KEHARASE
作曲担当のyopiさん・ボーカリストSorteさんの二人からなるVR音楽ユニットYSSによる楽曲。高音の太鼓の乱打と笛、民謡的なメロディラインがダブステップで、バーチャル界隈としては珍しく明確なクラブ指向と暴力的なサウンドプロダクションがとても好みだった。
20. HOLOTORI - HOLOTORI Dance!
ホロライブの鳥類系メンバー(ホロライブJPの大空スバルさん・鷹嶺ルイさん、ENのTakanashi Kiaraさん・Nanashi Mumeiさん、IDのPavolia Reineさん)からなる多国籍グループHOLOTORIのオリジナル曲。Shuba Duck memeダンスを踊る五人のアニメーションがかわいい、軽快なエレクトロスウィング。
この曲は日本語・英語・インドネシア語という三つの言語が混在していることに加えて、"Ba twee la cit cit kuwa kwe"という各国での鳥の鳴き声を模したコーラスのメロディとコード感はどこかアフロディスコを彷彿させるところがある。多国籍グループという特徴が歌詞にもサウンドにも反映されているところが面白い。
21. 温泉マーク - ナイチュー!
オートチューンVTuber(現在はオートチューンストリーマー)温泉マークさんのオリジナル曲。名乗りの通り、配信中に声にオートチューンをかける配信者で、タイトルの「ナイチュー!」は悲鳴や焦った時の声をオートチューンが変調し、面白い鳴り方をした際に視聴者が発するコメント。Jon Hasselのような第四世界的なアンビエントの上に不穏なトラップビートとオートチューンのカットアップを重ねたサウンドは唯一無二。アイデアもサウンドも面白い一曲。
22. 花譜×東京ゲゲゲイ - メイドインあたし
KAMITSUBAKI STUDIO所属、Vsinger界隈の筆頭人物花譜さんと東京ゲゲゲイが組んだ楽曲。花譜さんの歌唱はところどころ音程がぶれていて、その不安定さが唯一無二の魅力を生み出しているのだが、その音程のぶれをオートチューンが拾った結果、メロディの節々にもつれと不協和音が生まれ、インド調のエキゾチックな音楽性に妖しくスリリングな魅力を添えている。ボーカリストの特性とオートチューンという技術をこれ以上ない形で活かした完璧なプロデュースに感嘆するほかない。
後書き
この記事を書こうと思い立った主な動機は「人に知られていないところで面白い音楽を生み出しているVTuberを広めたい」というものだったのですが、書き終わってみれば著名な活動者が半数以上で、残りもほとんどは登録者数千~数万人という、何とも微妙な結果になってしまいました。本当はもっと登録者数3桁くらいの人を紹介できれば良かったのですが……。そこまで行くと歌い手くらいしか知らないため、"VTuber楽曲"という主旨からずれてしまうためセレクトから除外しました。その分は自分のブログで紹介しようと考えています。
来年は同じことを繰り返さないよう、もっと深く掘って行こうと思います。知らない楽曲があればぜひ聴いてみてください。