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コウ

もう何年経ったっけ?

路上にしか居場所が無くて、全部憎かって、あん頃のわいら、はやかったなーって今思い返すと。

コウは分かると思うけど、はやい、ってゆうんは別に物理的なもん違くて、いや、実際物理的にも速かったんだけど、他の言葉で言ったら生き急ぐっていうんかな、とにかく全部がこの瞬間に過去になってくのがこわくて、必死で手に入らんもんを追いかけてたような感じ。

そん頃のわいら、中学もロクに行かんで、ずっと新宿に居ってスケボーばっか乗っとったね。アスファルトの路上で速度が出るようにカスタムして、何度も轢かれかけて。怒鳴られて。

コウ、神楽坂から新宿までの国道のデカい坂でタクシーに激突して、ボディ凹んでんの見てバリ逃げたん、覚えてる?

止めようとしてくる警察に中指立てて、めちゃくちゃ追いかけられて。
あん頃にはもう、わいらと本気で鬼ごっこしてくれる大人なんか、警察ぐらいしか居らんかったもんね。

伊藤は年齢パチってうどん屋でバイトして。火木シフトで入っとったけど、売りモンの天ぷら勝手に昼飯にしてたのバレてクビなってたな。

わいら、いっつも伊藤ん家集まってた。
夕方、肉屋の伊藤のボロい家。合法ハーブの香り。

玄関の前で待っとったら、奥から怒号。伊藤の目とほっぺたにでっけー痣。それでも誰も何も言わん。

親父さん、体ゴツかったから、伊藤、こわかったと思う。

伊藤が毎日親父さんから殴られとったの、みんな知ってて、でも、そん頃のわいらガキすぎて何にもできんかったな。

神楽坂の伊藤ん家から御茶ノ水まで、スケボー飛ばして15分かからんかったんじゃん?伊藤は買う気もないのによくドラコネで試奏っつってドラムぶっ叩いてた。

御茶ノ水で夜になっちゃうと、わいら金無いしどこにも入れんから、とにかく寒くて、寂しかった。

御茶ノ水橋の向こうに医大があって、綺麗な建物が光ってて、あん暖かそうな光が羨ましかったな。

最近分かったんけど、あん頃のわいらが羨ましそうに見てた建物、大学の図書館かなんかだと思ってたけどちゃうんね。あれ病院の病室じゃもん、わいらそれ見て羨ましがって、バカじゃんね。


いつか俺ら、だいじょうぶになんのかな。

って、わいらいっつも言ってたな。
思い出すと、わい、あん頃んわいら抱きしめたくなるんよ。

14、5のガキが、必死で、いつかだいじょうぶになりたいって、な。

葬式でコウんママがわいらに、「あなた達はコウの憧れ」って。

コウん病気、わいらが背負ってやりたかったって、本気で。

コウも、伊藤も、わいも、ロトも、ウケるくらい病んどって、ロトが親父の机からパチってきたモン焚いて、伊藤がパキって、怪獣がいる、怪獣がいる、地獄に来ちゃった、って騒いで、大ゲロ吐いて、あん時焦ったな。

コウは隅っこでずっとちっさい声でごめんなさい、ごめんなさい、って言い続けてて、わいらブリってたしそれ見て爆笑してたけど、あれ、今になって考えれば、コウはもう危なかったんね。気付いてやれなくて、ごめんな。

わいらのうち誰がコウみたいになっとっても、おかしくなかった。本当に、たまたま、コウが選ばれた。だからこそわいら悔しくて、あん後からわいら3人、加速して荒れてったんよ。

一日重ねてくたびに、未来が閉じて、真っ暗になってく感覚、あん4人は共有してたよな。

そん過去。つらかった頃があるって、今の周りの奴らはだれも知らんし、そいつらがもしそん頃のことを知ったとしても、わいらの痛みのカケラでも理解できるとは思えん。

だから、わいら4人だけは、あん頃つらかったねって、お互い覚えとかんとね。

わい、もうスケボー乗らんし、代わりに、いや、代わりにでもないけど、車買ったんよ。おんなじ4ツ輪でも、全然違うよな。車なんて、いつか買えるって思ってもなかったわ。

わいら、大人になってしまって、あん頃の記憶も薄れていって、いつか、そん過去も無かったみたいに感じてしまうかもしらん。

だからその前に、残しておかんとって、これ書いた。

わい、天国やら信じんけ、コウがこれ読むとは思わん。でも、それでもコウに読んで欲しくて、書いてしまった。

わいら、いつか、もうだいじょうぶってなれたら、あん頃んわいら抱きしめてやろうな。

じゃあな。


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