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存在しない記憶 第一章

第一章 二度目の秋と反吐


秋葉原で暮らす数羽の鳩が、朝日でキラキラ光る道端のゲロをついばんで本日の朝食としていた。ギリギリのところで耐えていたのに、それを見て一気に吐き気を催して鳩の横で勢いよく嘔吐した。

もともと鳩はギョロっとした目が怖くて苦手だったから、そいつらがゲロを食ってる様子は余計不気味に感じられた。鳩たちは驚く様子もなく、横目で新しいごはんの出現を確認しながら食事を続けている。

十五分ほどの格闘の末、胃袋の内容物をあらかた出し切った後に出てきた最後のゲロは濃い緑色だった。ウシガエルの解剖の時に外科用剪刀が胆嚢を突き破り、飛び出た深緑の胆汁が美人の同級生の顔面を汚している様子を見て少し興奮したのを思い出した。

最近入った軽音サークルの飲み会では、いつも何を話していいか分からないから煽られるがまま酒を飲んでしまう。グラスの酒を飲み干せば周りの何人かはイェーイとかいって盛り上がる気もするから、誰よりも酒を飲み誰よりも早くぶっ倒れた。何故かはじめより偶数人数だけ減ったカラオケの個室で三年のかわいい先輩と四年の先輩がディープキスをしているところも、ぼやけた視界の端で見えていただけだったので不快感は薄かった。

「今日は解剖実習これそう?笑」と同級生からLINEが入っていたが、この状態で、肺炎で亡くなった婆さんの頭頚部の切断など出来そうもないので教授に欠席する旨を謝罪とともに伝えるメールを送ったのち、実習を一緒にやることになっている班のメンバーにもごめん今日も休む、と送った。あと一回実習を欠席したら留年することになってしまう、と教授に告げられていたことを思い出した。知るか。

 



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