【番外編】就活終わった人の話。


終わってしまった。

就職活動が解禁されて2ヶ月。
コロナウイルスの関係で、説明会は無くなるし、リクルートスーツ姿のコピー人間を目にすることは、例年に比べ圧倒的に少なくなった。

私も就職活動を行う学生の一人であるが、今日付けで、その活動に終止符が打たれてしまった。


そう。

今後の活躍を祈りながら謝罪するメールが届いたのである。


正直なところ、大変傷ついている。
これは自分としてはとても意外な事だ。

というのも、私はたったの3社しか受けていないのである。
普通の就職活動は、100社でも足りないのかもしれないが、私は嘘をつくのが下手であり、バカ正直な人間であるために、興味のない企業への就職活動が出来ないのである。

「この会社を受けた理由は?」

とでも聞かれてみろ。
答えることなどできない。

「数打ち当たるということで受けました」

なんて書けるわけないのである。


そもそも私が志望して、本当に行きたい企業は一つしかないのである。
3社も受けていることは、それだけで奇跡的な状態だということだけ弁明しておきたい。


私がそのメールを確認したのは、授業の30分前であった。
珍しく、就職活動のアプリの右上に赤い通知マークがあるのを確認し、血の気がサーッと引いていくのを感じた。
恐れても仕方が無いので、LINEを開くような感覚でパパパッと画面を操作していく。
そこで目にしたのがコレだ。

【書類選考不通過のお知らせ】

タイトルで言ってしまっている……。
なんと残酷なことか。
「選考結果のお知らせ」程度に出来ぬものか。

あまりの残酷さに体が震えた。

ここまで既に2社からの書類選考不通過のお祈りメールを確認していた。
当然、その2社は本命ではないから、むしろ安心していた。そこに呼ばれても話せることなど何も無いからである。

残された大本命。
採用人数は例年1~3人という狭き門。
畑違いの分野への挑戦は、その門戸をさらに狭めていたことは間違いないだろう。

さらに私は、自分を自分で追い詰めていた。
これまで本命の合格経験がない自分にとって、味わったことの無い感覚への不安と、落選という言葉が容易に想像できてしまう経験値は、日々私を苦しめた。

「どうせ落ちるんでしょ」
「そりゃそうや、受かったことないから」
「私の学歴求める企業なんかあるわけない」

昔から自己否定が得意な私にとって、それはとても容易で、そして知らず知らずのうちに自分を苦しめていた。
日に日に睡眠時間は浅くなり、パニック障害を引き起こし、嘔吐と過呼吸を繰り返す日々。そして追い討ちをかけるように、コロナウイルスの自粛期間がやってきて、私にとってそれは大いなるストレスとなった。


そして、今日。
「誠に遺憾ながら」企業様より、今後の活躍を祈念されてしまったのである。


落ちても平気と保険をかけていたのにも関わらず、メールを目にした私は、全身が震え、オンライン授業のためにバチバチにメイクした後なのにも関わらず号泣したのである。
次第に吐き気を催し、食事も喉を通らなくなった。

その様子を見た母は、慰めることもなく、むしろため息をついたのである。

「え、何。私は気に触ることしたのか」

咄嗟にそう思うレベルに。


しかしそうではなかった。
話をしていると、どうも努力をしていない私に採用連絡や審査通過連絡など来るはずもないと言うのである。

たしかに分かる。
私はアピールポイントはアルバイトしかないと言っていいくらい、学生生活で何か頑張ったことはないのである。
友達もいなければ、ゼミの活動やサークル、ボランティアもしていないし、資格試験も受ける余裕がないことから何一つしていなかった。
そのことなら理解しているし、むしろ落ちたことでどうすべきか、考え始めたところである。
学歴を覆せるだけの何かを得たいと、強く思った次第である。

だが、母の言う「努力」は、これではないのだ。

つまり、他の子たちが何十社も何百社も受けている中、たった3社のお前が採用でもされたら、他の子たちが報われないというのである。

そこで私は思った。

就職活動の努力=受けた会社の数なのか、と。

はじめに書いた通り、私は興味のない企業を受ける気などない。それは母も承知しているところである。

しかし母はそれを否定したのだ。

挙句の果てに、ため息の連発と逆ギレをぶちかまし、無視をしてきた。


バイト先の友人たちは昨年、ジャンル問わず多くの企業の説明会に赴き、ESを書き、面接へ行っては飲み会に参加して、よくそんなに頑張れるなと感心したほどであった。私には到底無理な事だから。
でも、自分にとって興味のない場所へ行く気は全くないのである。
パワハラや何やらから逃れられないご時世であるからこそ、好きな仕事をすることは、その仕事に全力で取り組む栄養源となると考えているからである。
そもそも私はアルバイト先で現在進行形のパワハラにあっているし、父親はDVやネグレクトな人間で、パワハラにあわなかった時期は無いと言えるほど、パワハラ引き寄せマシーンなのである。だから仕事選びは重要であると考えていた。

でも、たくさん受けてる人ががんばってて、絞って絞って一点集中でやってる人はナンセンスなのだとしたら、このやり方を見直さねばならないし、最も、自分の考え方を根底から改めねばならないし、おべっかを使うことに躊躇してる暇はないということになる。

そんなことできない私のような人間は、社会に出られないということなのだろうか。
興味のない仕事をして、パワハラにあい、生活ギリギリの給与の元、多額の税金を納め、推しに課金することも容易でない生活など、何が楽しくて生きていられようか。


そもそも私は、間違っているのだろうか。
どうにか、マイノリティな生き方を辞める方法を教えて欲しいものである。

そんなこんなで、推しを見ることさえ耐えられないほど傷ついてしまった私が思うのは、オタクは外からの攻撃にはめっぽう弱いらしいということだけである。


……来年の就活時期には、コロナ落ち着いてるといいなぁ。

あと、太らないようにしなきゃ。スーツ、入らなくなっちゃう。

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