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2672gの履歴書

 「この選考シートが一目であなたのものだとわかるように工夫してください」

 先頃受けていた会社の一次選考。規定のシートのいくつかの設問に答えた最後、そんなお題が書かれてあった。制約はA3サイズでの出力ということのみ。紙面をデザインしろという意図なのだろうけど、なにか分厚かったり重みがあればより自分のものだとわかりやすいかと考えて、2kgのクソ分厚い塊にして新卒採用宛てに送りつけた。1週間後、一次選考通過の連絡が来た。

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 私は、人よりも少しか弱い体で生まれてきた。生まれた瞬間の話だから、今では健やか万歳という顔で生きているけど、生まれた当時それはそれは貧弱で、吹けば飛ぶ命を絶え絶えに灯し守られながら幼児期を過ごした。生後すぐにインフルエンザで死にかけたり、おでこの骨が凹むくらい勢いよくアスファルトに倒れこんだり。文字通りいろんな大人の介入を経てここまでスクスクと育ってきたことに、私は誕生日を迎えるたびに額に手をあて、しみじみと感謝をする。

 2672g。私がこの世に足を踏み入れた瞬間の重さである。2kgって、小さい。スーパーのお米より全然軽い。それがみるみるうちに大きくなって、一人の重たい、50kgくらいの大人が完成したりする。そういう途方もなさと尊さが、全ての人の数だけある。もちろん私にもある。のに、私のことを知らない大人たちは、さもピラピラの紙一枚で私のことを知った気になって判断しようとする。そんなので分かった気になられてたまるか!(パンチ) 私の人生は、A3に収まりきるほど既にコンパクトなものではない。
 だから、私のことを全然知らない大人たちに、その個人史がより伝わる形のことをずっと考えていた。ギリギリまで考えて、選考シートに自分の出生時の体重をもたせてみようと決めたのもギリギリで、でもそれはただの紙一枚を封筒に入れて送るよりかは幾分かマシなことのように思えた。

 コピー用紙1枚8g、計約334枚分。紙を重ねて塊を作った。赤ちゃんが包まれてる白い布みたいなのも縫って、ボンドでギチギチに固めて、生まれたての私と同じ重みの、2672gの分厚い履歴書が出来上がった。
 この奥行きは、私がこれまで積み重ねてきた人生であり、かつ、これからこの会社で積み上げてゆく企画の数々である。知らないことだらけ、まだまだひよっこで手のかかる赤子のような存在だが、どうかあなたの側に置き、より分厚く成長していく様を見届けてほしい。そんなことも手紙に書いて添えた。

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 何らかの物作りで社会に寄与したいと思うからには、なるべく鮮度のある眼差しで世に立ち向かいたいと思う。ヘレンケラーが初めて水に触れた時みたいに、初めて接する驚きを全ての物事に対して持てたらいい。社会人として、これまでとは違う社会との関わり方をする上で、まるで生まれ直したような新鮮さで、これまでこぼれ落ちてきた物事の価値を掬い取る仕事をしたい。「water...」って言いたいし、言わせたい。そのために私はものを作り続けていたい。
 一世一代のプロポーズ。御社が根負けするか、私の体力が尽きるか、どちらが先に倒れるかは分からないが、この選考はまだ続いている。この前の面接では興奮して全然うまく喋れなかったからダメかもしれない。もしダメでも、自分の一番根にある部分に気づけたからそれでいいか、とも思う。でも受かってたいな〜〜〜~~全部全力でやってるからどこにも後悔はないです

おしまい!

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追記

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ちゃんと2672g測ったのにボンドの重みとか考えてなかったからぴったりじゃないかもしれないことに気がついたけど、赤ちゃんは一日でけっこう成長するからよし。


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