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そして灰色に染まる。

「彼女はどうしてバイオリンを弾いているのか」

曲の方向性も固まりかけた頃、そんなひとつの疑問が生まれました。

初めにRiezさんとの話し合いの中で、私が提案したモチーフのひとつは「廃都」。
かつてそこにあった文明、人々の繋がり、優しさ ── それら全てをどこかに隠して、ひっそりと存在している。その繁栄を知る者は既に去り、寂しさだけを携えて広がる景色に、どこか美しさを感じるんです。
初対面のRiezさんに「廃都が好きです」と熱意を持って語ったぐれいちゃん、冷静に考えてキモすぎる。正気の沙汰とは思えません。彼はひたすら笑ってました。
Riezさんの美しくかつ繊細な作風で、そんな「荒廃した都市」の曲を作ってほしいという私の我儘から、この作品は始まりました。

ボカデュオ」という大きなイベントに参加すると決めた私たちに心強い最強のメンバーたちが加わったのは、去年の暮れのことだったと思います。
作品もお人柄も魅力の溢れるクリエイターさんたちですから、ひとりひとり論文レベルの長文で紹介したい気持ちは山々なのですが、有り余る愛に筆が止まらなくなってしまうので今回は簡単にご紹介だけさせて頂きます。

作詞・作曲・編曲
Riez さん

イラスト
茶野そめは さん

動画
yuiru さん

ボーカルミックス
ひまりもち。 さん

今回のボカデュオ、チーム「matcha mf.」は以上の最強チームメンバーといっしょにお届けしております。

チームメンバーと会議をしていて、もうひとつ後から決まった要素が「バイオリン」でした。
趣味の延長なので表立って言うことはあまりなかったと思うんですが、実を言うと私はオーケストラでバイオリンを弾いているんですね。Riezさんもよく楽曲にストリングスを使用しているので、これは相性の良いモチーフだなということになりました。もしかしたらそのうちの何割かは「そめはさんにバイオリンを弾いているぐれいちゃんを描いてほしい」という個人的願望からだったかもしれませんが。

さて、冒頭の文章に戻ります。

「彼女はどうしてバイオリンを弾いているのか」

考えてみればそうですよね。
必死に響かせた音は誰にも届くことなく、広がる空間に吸い込まれていくだけ。何故、彼女はそんな場所でバイオリンを演奏するのか。
構想段階では
・演奏することで、廃都を復活させていく
・バイオリンの音色で花が咲き、生命が蘇る
など、前向きで心躍るような美しい案もいくつか出たように記憶しています。
しかし今回の楽曲は、そのどれでもなく、明確なひとつの意志を秘めています。

崩れていく世界の中で、この音だけは紡いでいたい。

忘れ去られた世界の真ん中で、彼女はそんな想いをバイオリンに乗せる。彼女が演奏するのは、御伽噺めいたストーリーではなく、壮大だけれどもどこか共感できるような、そんな理由からなんです。
以下は、作者であるRiezさんから頂いた文章です。

自分の不安定さや周りの世界の無常さを感じながら、たとえ辿ってきた道のりや足跡が全て消えていくとしても、自分が存在しているということを、奏でる音でどこかに残したい

逆らえない運命への大きな諦めの中に、固く強い意志がある、そんな楽曲になっています。

歌っていて特に自然に感情を乗せることができたのは、2番の歌詞です。崩れゆく世界に身を任せていても、それでもやっぱり、願ってしまう。思い出してしまう。実に人間らしくて、私は好きです。

せっかくの機会なのでワンフレーズだけ弾かせてほしい」とお願いして、2番の終わりに少しだけではありますがバイオリンソロを演奏させて頂きました。快諾してくださり、ありがとうございます。
普段はオーケストラの中でしかバイオリンを弾かない(カルテットなど少人数のアンサンブルで弾くことはあってもソロで舞台に立つことはありません)ので、とても新鮮な経験だったなと思います。
毅然と、それでいてどこか物悲しく、温かみの残ったような音を意識して弾きました。皆さんの心にはどう響いたでしょうか。

最後にはなりますが、この作品に関わってくださった全ての方々に感謝を申し上げます。
そして何より、作品を聴いてこの文章を読んでくれたあなたにも、ありがとう。

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