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『妊活の山登り、道標は鍼灸』

妊活は、山登りに例えることができるのではないでしょうか。

目指すは山の頂上です。

最初は、ワクワクした気持ちと軽快なリズムで出発したと思います。

しかし、なかなか頂上に着かない道のりに、こんなに進みにくい道だったのか、この道で合っているのか、戸惑いや不安、イライラなどを感じることが多くなってくるかもしれません。

そんな時は、一人で登るよりも、山登りに詳しいガイドと一緒の方が、気持ちも身体も今より負担を減らして頂上を目指すことができると思います。

この山登りのガイドのいいところは、実際の山登りと違って、登り始めた後からでも欲しいと思ったら、その場所から付けられることです。


鍼灸が道標になった話


mさん

年齢 38歳   身体162㎝  体重53kg

主訴 なかなか妊娠しない

 
3.4年前から子宮腺筋症

1〜2年前からチョコレート嚢胞あり(現在2㎝)

クロミッドとセキソビットを併用し、タイミング法をしている。


20〇〇年、12月25日 初診

鍼灸に興味があるけれど、痛いのは嫌。

ネット検索で、当院の刺さない鍼施術を見つけられて、刺されないなら痛くないのでこれなら大丈夫かもと、来院されました。

 

東洋医学では、気血が経絡を巡っていて人は活動できているという考え方があります。

経絡は体内と体外に分かれていて、体内は五臓とつながり、体外はツボとつながっていると考えられています。

活動が順調な時は気血の巡りが良い状態です。

不調な時は、気血の巡りも悪くなります。

ツボや経絡は解剖学的に、実在するのかどうかという点はまだ解明されていません。

しかし、体に鍼をすると、それによって痛みやこり、しびれがなくなるなどの現象から、ツボや経絡は存在していると考えて治療をしています。

 

不調を治すのが、ツボと経絡になります。
では、早速診ていきましょう。


まず、患者さんの五臓の働きが順調かどうかを診ます。

五臓とは、肝・心・脾・肺・腎の五つです。

診るポイントは、問診に加えて、肌のツヤや色、脈の強さや速さ、お腹の張りやこりなど、望診・触診などで判断します。

その結果、「心」の働きが低下していることが分かりました

「心」の性質は、心臓と同じで全身に血を送る働きがあります。

東洋医学的には、心の気は腎に送られて、全身を温めます。

心がワクワクする時に、体が温かくなるといった経験がある人もおられるのではないでしょうか。

感情や意識活動を統括しているところでもあり、心の血が不足すると、気持ちが落ち着かなくなったり、寝つきが悪くなったり、よく夢を見るようになります。

 
五臓はそれぞれ独立して働いているのではありません。

母親が子どもを産み育てる関係(相性関係)や、夫婦関係のように互いを抑制し調整し合う関係(相克関係)など、それぞれつながりがあります。


患者さんの場合は、「心」が弱っていることが分かったので、心の親にあたる「肝」を診てみます。

「肝」は、親として子を助けるべくとても頑張っているようで、少しお疲れの様子でした。

そこで、「肝」の親にあたる「腎」を診てみることにしました。

「腎」は、さらにお疲れの様子でしたので、その親にあたる「肺」を診てみると、肺は元気な様子でした。

患者さんは、「肺」が一番調子が良くて、「心」と「腎」が弱っていることが分かりました。


「腎」は、心の気を活発になり過ぎないように心の熱を冷ます働きがあります。

しかし、患者さんは、よく歌をうたって熱を発散させていたようですが、これは腎が弱って心の熱を冷ますことが不十分であったためだと思われます。

(本人は無意識でやっていると思います。)


「心」と「腎」が本来の力が発揮できれば妊娠力を付けていけると考えて、施術を行なっていきます。

腎は骨、心は血管に主に栄養を与えます。

山頂に行くために必要な丈夫な骨と体の隅々まで酸素が行くような血脈を目指します。

施術は基本的に週一回のペース。

お灸をするツボは、太渓・太淵・陽池・三陰交など、鍼をする場所は、『気のリンク』で導き出して行いました。

 
当院の施術に加えて、家でもお灸をしてもらっていました。

お灸は家でも手軽にできるのでおすすめです。

施術後に家でもお灸をしてもらうツボに、ペンで印を付けていましたが、家に帰ると印が消えていることがあり、その時は患者さん自身が印を付けた写真をメールで送ってもらい、確認したこともありました。

 
2月は生理から9日目で排卵してしまったようでしたが、それ以降は排卵まで13日前後になりました。

そして、卵胞の大きさと子宮内膜の厚みも良い状態になりました。


3月 卵胞は23.4ミリ 内膜は13ミリ

4月 卵胞は21.4ミリ 内膜は11.7ミリ

6月 卵胞は左右に一つずつ21ミリ 内膜は14ミリ


数か月間、タイミング法で挑戦しましたが妊娠に至りませんでした。

しかし、この頃になると、「心」の働きはよくなってきていました。

家で歌をうたうことも以前より減ったようでした。

 
7月 2月にFT手術をされて半年近く経つので、再度卵管造影検査を受けられ、両方の卵管が閉そくしていることが分かりました。

これを機に、体外受精に進むことにされました。


山の頂上へたどり着くことができるように、引き続き週一回ペースで施術を行いました。

この頃は、「腎」と「肝」の働きを良くするための施術を行いました。

腎は骨、肝は筋肉に主に栄養を与えます。

骨を丈夫にして、筋肉をつけて、頂上を目指します。
 

お灸をするツボは、主に太渓・太衝・陽池・三陰交です。

鍼はいつもの気のリンクです。

 

9月 採卵

8個採卵し、7個胚盤胞で凍結することができたとのことでした。

受精方法はふりかけと顕微受精を半々で行ったそうですが、結果はふりかけの方が良かったようです。

 

11月 1回目の移植  陽性  17hcg

判定日のhcgの数値が低いため、鍼灸の回数を増やしましたが、7週目であかちゃんの成長は止まってしまいました。

 

3月 2回目の移植  陽性

今回もhcgの数値が低いため鍼灸の回数を増やしました。

判定日は44hcgでしたが 、一週間後の診察では1300hcgまで上昇

しかし、染色体異常が分かり、今回も断念することになりました。

度重なる流産に、頂上を目指す自信がなくなりかけていました。

また最初から山頂まで目指さないといけないと思っていたようですが、そんなことはありません。

 

7月 3回目の移植 陽性  600hcg

悪阻がひどく、来院できない期間が続きました。

 

2月 31週目に逆子治療

検診で逆子になっていることが分かり来院。

次の検診で逆子が治っているのが確認できる。

1回の施術で治ったことにびっくりされ、鍼灸効果を改めて実感されていました。

 

4月 無事に女の子を出産

頂上まで行くことができました。


鍼灸は、プラセボ効果でしかないという意見もありますが、三回の移植全て着床したこと、施術後の検診でhcgの値が大幅に上昇したこと、逆子が治ったことなど、鍼灸治療による効果があったと考えています。


患者さんも、「鍼灸を受けると肩こりが治る、腰痛が改善するなど身体の変化を感じることで鍼灸の効果が分かる」、「気になることや不安なことがあっても、鍼灸を受けると楽になることが分かり気持ちの安定作用にもなった」と話されていました。

鍼灸の効果を実感し、患者さんは母親にも鍼灸を勧められて、私の刺さない鍼施術を受けていただいたこともありました。

 

なかなか授からないと、自分のせいと自らを責めてしまうことがあるかもしれません。

そんな時は、ガイドを付けて色々と相談してみてください。

今回のように、出産への道標になることがあると思います。

 

補足

今回、五臓とツボを切り口にまとめましたが、五臓だけで人を診るということではありません。

食生活や睡眠の質、過去の既往歴など患者さんを取り巻く環境を鑑みながら治療方針を立てて、施術を行っていきます。

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