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記憶草の万象歴


平沢進のギターアルバムが発売される。それは19年ぶりのことであり、そのアルバムに言葉はない。全曲インストゥメンタル。しかしそれは今作の品質を、平沢進であるということを断じて損なわない。植物電子は熱くもなく冷たくもなく、ただ聴くものに寄り添っている。

公式サイトで試聴できる「記憶草の万象歴」を聴いてみてほしい。痩せたクリーントーンの繊細な音があなたの神経をくすぐり、そして柔らかく撫でるだろう。8mmフィルムのように粗く歪んだギターも不快ではなく哀しげにさえ聞こえる。
その音像は青い草へ枝垂れかかった大木を介して漏れ込む陽光のようで、あるいは夜ごとに氷壁のあり得ない傷へ降る糸雨をも想起させる。重なり合う音と音は質量として僅少にもかかわらず、雄弁な心象をあなたに見せるだろう。

その心象を見たあなたは既視感を覚えるかもしれないし、あくまでも未知の情景として映るかもしれない。それはある意味で正しい。平沢進の音楽は常に来なかった近未来、または有りもしない既知という矛盾を体現してきた。今作もその一面を否定しようもなく備えているだろう。
しかしこの「植物電子の本」を紐解くとき、おそらく私たちは著者の言に耳を傾けなければならない。曰く、

「思い出してください やって来ます」


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