TSFビフォーアフターアンソロジー 全作品感想

 C101にて頒布されたTSF作家による合同誌、「TSFビフォーアフターアンソロジー」の感想になります。あらすじや見どころ紹介などもあるので、ネタバレを避けたい方はブラウザバックを。

 逆に「これ気になってるな~。内容がもう少し分かれば嬉しい~」と言う方は、主催者のズンダリンダさんのpixivに上がっているサンプル(https://www.pixiv.net/artworks/103234816と合わせて本投稿をお読みいただければと思います。

個人的な総評

 今回はTSF界の大御所と言える方も何名も参加しており、ズンダリンダさんの主催でなければ成り立たなかったような豪華な執筆陣です。

 TS好きを自称する方で、参加者をフォロー中の人が一人もいない、という人はいないのではないのでしょうか。元々は身内でのネタ回しが強い界隈だった覚えもありますが、最近ではTS性癖も一般化しつつあり(個人の意見です)、市民権を得てもはや特殊性癖ではなくなりつつあるような気もします。
 とはいえ、人口に膾炙されているとも言い難い状況。この冬から始まるアニメではTS該当作品がいくつか散見されるので、ここからさらに興味を持つ人が増えればいいなと思っています。このアンソロジーは、ライト層からもディープ層からも需要に応えられる作りになっていると感じました。
ジャンルに関しても一通りのTS性癖は網羅されているように見えますし、「性転換ものが気になるし色々な作品が読みたい」という人は、まずはここから手に取ってもらうのもアリだと思います(メロン委託ありとはいえ限定品ですが……)。

 感想については水戸湊の勝手な解釈によるものなので、見落としや解釈違いがあるかもしれませんがご容赦ください。出来る限り、どの作品からも『良さ味』が伝わるように要素をくみ取っていくつもりです。

作品名(作者名:敬称略)
目次順です。

漫画作品


おわかりいただけただろうか(三日月ネコ)

 心霊番組風の変身漫画。1ページ目の大ゴマに描かれた男女が、数ページ後に様々な姿に変化しているお話。
 まず、紙媒体の強みが出る一本だと思った。デジタルではフリップでめくらないといけないところが、紙媒体ならページを指で挟むだけでビフォーアフターの姿が堪能できる。最初の一読で少年3人の女体化を見て「ふぅん…」と思い読み進め、最終ページの構図ではっとして最初に戻る。そして指で繰り返しめくってひとりひとり(あるいは入れ替わり組)の前後を堪能する……なんどもそうやって味を噛みしめているうちに癖が出来てしまうのは逆に紙媒体の弱みなのかも。癖がつくのは仕方ない。だって一読で全部消化することはできないんだから。
 本編は5ページだが、その中にはだいたい45ページ分くらいの内容が詰まっていると言っても過言ではない。
 1コマで9人分の変身や入れ替わりという男女それぞれの複数パターンのTSが描かれているため、トップバッターから非常に高カロリーな性癖がのしかかってくる。豪華なアンソロジーをお節料理に例えようかとも思ったが、すでに一発目から家系か次郎系だ。
 ビフォーアフターのおいしさをあえて1コマに収めつつ、その中に様々な性癖シチュエーションが詰め込まれている。変身・TS界の大御所だけあってさすがと思わせる絶品だった。
 

自称天才科学者の幼馴染に女の子にされて色々される話(らびすと)

 ごく普通の男性がお薬で小さい女の子にされて可愛がられる話。可愛いと言われて赤面、からの鏡見て「可愛いな、俺」←かわいい。
 髪の毛から女体化が進行していくのと並行して二人の会話が入ることで普段の様子を差し込むのは上手い構成だと思った。このシーンがあるからこそ、変身後にイニシアチブを取られて『検査』されるシーンが活きる。
 変身後のサイズが合わない服とか、お漏らしシチュとか、甘いもの食べて蕩けるシチュとか、スク水は浪漫だとか、「わかりみ」に溢れる作品だった。
かわいい(断言)

後輩⇆先輩(メリケン)

 憧れの人(女)と後輩(男)の入れ替わり。
 天才でクール系の先輩(ちっちゃい)をお世話している後輩君が実験の失敗で入れ替わってしまう。後輩が憧れの先輩の身体になってちょっと不純な感動を抱いているのに対して、マイペースな先輩は背が伸びたことに感動しているのが二人のキャラクターが出ている。
 漫画というか絵のつよみで、同じ外観でも中身が異なることを分かりやすく示せるのは入れ替わりにおいて純度の高い「良さ味」に直結している。
 先輩(中身は後輩)と後輩(中身は先輩)の変化は如実で、寝不足が解消されてキラキラしている先輩は可愛い。そして先輩のお世話係は継続しているので、ちっちゃい身体でだらしない先輩のお世話を焼いてくれる女の子(中身後輩)はまさに身体と精神のベストマッチ、白衣の汚れを気にして新しい白衣を差し出してくれるシーンは可愛いの一言では足りないがその感情を十全に表記するには紙面が足りない。この味は読んだものだけが得られるのだ。
 後輩に入れ替わった先輩が自分の身体の後輩に対して抱いた「(私の身体の)後輩君可愛いな?」という感情は読者としても首肯以外の選択肢を持ちえない。そこからさらに天然で落としに来る後輩。それは自分のやっていることからあふれる可愛さに自覚がない元男性だからこそ出せる圧倒的な嫁オーラ。先輩ならずともこのあふれ出る可愛さには圧倒されるであろう。

自信がない?それなら女の子になっちゃいなよ!(季結ふゆき)

 男子高校生から女子高校生への女体化漫画。……かーらーの、メイクでイケてるJKになるやつ。
 見た目に自信のない地味な高校生がふわっと女子高生になり、そこにメイクと言うもう一段階の変身を入れる二段ジャンプ。そこから繰り出される「これがボク…?」の一手はマリオならゴール前の旗を飛び越しているような良さ味がある。
 そこから、はっと我に返るところまで含めて様式美。TSもののアーキタイプのような作品だ。
 作者紹介のところの女体化後のピースしている絵がとても良い。自発的にこんな写真を撮らせてくれるようになるまでは元に戻してはいけない(鋼の意思)

不良の俺がいんがおうほーする話(Siro@)

 不良高校生が女体化して仲間に分からされそうになってお嬢様学校に入学させられる話。
 男子高校生時代の描写が良い。イキり散らして仲間とつるんでた悪ガキが、女体化した瞬間に裏切られるのは最高ですよ。可哀そうなTS娘でしか抜けない。
 そこからお嬢様言葉の女の子に拾われて保護されるのが……あーっやばい性癖に来る~~~~!!!好みドストレートの展開に語彙力のバットを投げ捨ててランニングホームランですよ!!感情と理性の連続試合は最終的に33-4で感情の大勝利となりました!VやねんTS軍!!
 この作品はTS前の描写に重心が乗っているので、そこからの仲間からの裏切りは重い一撃になっている。そこから孤独になり、自分がぞんざいに扱っていた女の子が唯一の保護者になってくれるという逃げ場のなさに続くため、二人の関係が環境によって無理やり縮められる形になる。
 女→男の一方通行な感情しか存在しなかった関係が、男が女に依存しなければならない状態になることで双方向に開通し、さらに女の子の方が立場としては上にある形になるのだ。
 それを鑑みての、ラストの胸を揉まれるシーン。「女が男に文句言ってんじゃねーよ」とマジトーンで言ってた男の子が、以前のようにイキがって噛みつこうとするも、背後から胸を揉まれて赤面して「ちょ…オイ、ヤメロ!」なんて言葉でしか抵抗できないのだ。
 あぁ~~~~~~!なんということでしょうね!!!なんとも言えませんね!!!!!(性癖を刺激されたことによる語彙力の大暴投)

Fold-er(いるこ)

 親友目線の過去形で語られる女体化もの。
 女体化後もなんともないように見えたTS娘の、唐突な内心の吐露。そこに重ねられる親友の複雑な感情。男と女の恋愛観の違いが語られる。
 ポイントは、TS娘が女なのか男なのか、外からでは分からないということだ。一度だけ吐露した男としての感情を見てしまったことで、親友はTS娘の中に男の残滓を見る。しかしそれがなければ親友はTS娘がなんら特別な感傷をもたず女としての自分を受け入れているように見えてしまっただろう。
 男である自分には女になったお前の気持ちが分からない、しかし複雑な感情は自分の中にずっと持っている。俺が一方通行に想いを引きずっているのか、お前も「あの時」のように感情を隠しているのか。
 作者からの明確な回答は描かれていないように見えた。現在を表す1ページ目からは、TS娘の内心を読み取ることはできない。そこにどのような感情を見るかによって解釈が異なる作品になるだろうか。
 
 ちなみに大学は結局同じところなのかな?一年遅れでTS娘がおってきたとかいう解釈が俺得すぎるけど。
 あと匠からのコメントが遺影だイェ~イ。

TSびふぉーあふたー(くまのみ)

 女体化ですし。なお話ですし。
 カップルの抱える問題がリアル……!からのトンデモ要望!かーらーのTS、からさらにオチにもう一発。
 ツッコミが追い付かないですし。スピード感のある作品ですし。個人的に、アンソロにはこういう一撃を振りぬく勢いの作品があると全体の緩急がついて嬉しいですし。髪型だけ男の頃の面影を残したちっちゃい女の子かわいいですし。匠の技、見事ですし。
 
 いやほんま、なんということですし。

師匠vs乙女心(ズンダリンダ)

 「丸一日平常心を保てば男の姿に戻れる」呪いをかけられた師匠のお話。
 TS娘視点での、弟子カッコいい(胸キュン)というストーリー。呪いをかけた妖姫さんはクールな男が女体化によって無様に表情を崩すことを期待していたのだけど、男は顔に出さないだけで弟子の優しさに胸キュンしまくっているのを隠そうとクールな外見を頑張って保っている。
 女体化によって弟子に惚れちゃう師匠と、それにまったく気づかない弟子の関係全体が可愛い。弟子ぃ!気づけ!!!と突っ込みたくなるけどTS娘ちゃんカワイイヤッターなので許す。
 シリアスな1ページ目から一気に崩してくるので、まるで四コマ漫画的なテンポで師匠可愛いが楽しめる。だれも見ていないところでの師匠の表情の変化が豊かで良い。一生心を乱してほしい。
 匠からのコメントページに表示されたステータスが女体化によってパワー重視からスピード重視へと変わっているのもいいですね。TSによるステータスの比重変化はファンタジーものの醍醐味。

水〇スペシャル幻の探検隊シリーズ ジャングルの奥地 幻の秘宝は実在した!(花束)

 某番組のパロディ。実は拙者、某建築番組も某探検番組も見たことないので雰囲気だけで語っていきます。
 これもパロディらしい勢い重視のギャグ漫画作品。
 探検隊(二人)がジャングルの奥地の神殿にたどり着くも隊員がTSトラップにかかってしまう!
 女体化によって発露する隊長への感情(視線がキモい)!
 卑劣な罠や解散の危機を乗り越えて進む勇敢な二人の前にさらなる罠が待ち受ける!
 
【 セ ッ ク ス し な い と 出 ら れ な い 部 屋 】
 
 ……タイトルからして分かりやすいパロディに、期待通りのギャグ展開。
 そこにえっちな一枚絵を入れるのはまさに匠の技で、子供の頃にコロコロコミックとかで急な作者の本気シーンによって性癖をぶん殴られたことを思い出してしまう。
 単純にパロディ漫画としての出来が良いので普通に楽しんでいるところに、女体化して男の裸を見て股間がうずくという性癖をぶち込まれたことにより、読者はSGS(セイヘキガイトウ・ショック症状)を起こして死ぬ。
 セ出部屋で「男同士なのに」とか言っていたのに、隊長が脱ぎ始めた瞬間に身体がきゅんきゅんしてそのまま……というのは心のTNTNがふっくらしてしまうが、このアンソロ全年齢向けなんですよね。大人しく性癖で殴られることを楽しもう。
 

絶棒の剣(フナムシ)


 ビックコミックあたりに連載してそうな男らしく荒い筆致の剣豪漫画。

 商人の癖に大刀佩いたデカいオッサンが女子(おなご)を襲っているところにふらりと一人の武士が現れる。一瞬動揺を見せて自分の行為を正当化しようとする商人だが、相手の艶のある黒髪を見て「なんだ女か」などとあなどり、大刀を見せびらかすように柄を撫ぜ、あまつさえ「お前が売られるならコイツは見逃してやる」などと愚弄する。
 しかし相手が悪かった。武士は腕に覚えのある某藩譜代の武士であり、商人から受けた愚弄に眉を立て、「無礼討といたす」と一喝。その手はすでに柄巻にかかっている。
 路肩にて向かい合う二人。両者とも一刀で相手を切り伏さんと身構える。傍らで見守る女子が男同士の果し合いに息をのむ。その音を合図としたように二人が動く。
「惜しいが、死んでもらうで?」
 商人が大上段に刀を振り上げた。示現だろうか。大男の振りかぶる業物は並みのものには避けえぬ圧を纏っている。日の光に輝く刃の光を受けても動じぬ武士。二人の身体が交錯する。
ザンッ!
 目にもとまらぬ一閃が商人の身体を駆け抜けた。気づかぬうちに武士は腰のものを抜き、切りかかってきた商人を返り討ちにしたのだ。
 腹部への鋭い一撃に商人は膝をつく。その死により勝負はついたように見えた。

(勝手にノベライズby水戸湊)

……しかし武士の刀は商人のハラワタではなくイチモツと闘志を切り捨てて、無力な幼女にしてしまっていたのだ!
 という、剣豪漫画に見せつけた幼児化漫画。
 本当に終盤まで剣豪漫画に擬態している。それによって、商人の『敵』としての格が描かれるため、幼女化への落差は激しい。剣豪部分にもきちんと力が入っているので幼女化への最高のスパイスとなっているのだ。
 幼女にされた商人は、自分が売ろうとしていた女子の服を着せられて遊郭に売られてしまい、女子は商人の刀を貰ってめでたしめでたし。
 いや、幼女化した商人を見てニッコニコで「たぶん高価で売れるでこりゃ!」っていう武士さん、普通に倫理観ぶっ飛んでると思います。ストーリー的にはこのまま売られる流れっぽいですけど、なんだかんだで売られずに二人旅とかになってほしいなぁ。
(追記:絶「望」と漢字を誤字ってた。内容で気づけよ俺)

甘い罠には要注意(REIA)

 サキュバスのハニトラに引っかかって取り込まれた勇者が、サキュバスが滅ぼされて蘇生→サキュバスの身体で復活しちゃった!というお話。
 レイアさんの書くむちむちボディが堪らない一本。サキュバスに取り込まれるシーンの擬音はえっちの一言。
 復活後も首から下は完全にサキュバス、頭は両方の面影があるので融合感もあって良い。爆乳ドスケベボディにサイズの合わないぴっちり僧侶服最高ですね。
 
 さっきも言ったけどこのアンソロ全年齢向けなんですけど大丈夫なんですか……?(小声)
 

タクミのビフォーアフター(カネコナオヤ)

 辺境の村で祭られている神様の神殿が改築されたら、装飾の意味が変わって神様も女体化してしまいました、というお話。
 装飾の意味が変わった結果として女体化してしまう、というのはカネコ先生らしい理由づけ。感情が高ぶって力を発揮してしまった結果、村人まで女体化してしまい、それが有難がられて過疎化していた村に活気が戻ってきました~とシンプルに纏まった話。
 神様のデザインが凝っていて、イケメンの神様が元の面影を残しつつ綺麗なお姉さんに変わってしまう外見上の変化が美味しい。男の時は真面目で落ち着いた風格だったのに、女神になった後は恥ずかしがって顔を真っ赤にしちゃうの可愛い。
 TS界の匠というか御大の技が光る一本です。

大改造 激変 ビフォーアフター 匠の挑戦 7P スペシャル(オ~ミチ)

 問題を抱えるお家に匠が出向いて、問題を解決するべくリフォームを施すお話。……そんな番組あったなぁ(すっとぼけ)
 今回のアンソロのお題で連想する某番組を、たぶん一番真正面からぶち抜いてきたパワー系の作品。
 身長の高い夫が移動しにくい古い家をどうにかしたいという要望に対して、なんか特に実績もない建築関係とは無関係な匠がトンデモ技術で問題を解決する。通ると(身体が女になることで)小さくなるトンネル……そんな道具、青タヌキの漫画にあったなぁ。
 なんていうか、一見するとパロディ系ギャグ漫画なんですが微妙にそこかしこに狂気がもりこまれているんですよね。片付け中に依頼者が見つけて涙したものがXXXで、夫のが入らないからそれで頑張って広げようとしていたとか、最終的にそれを女体化した夫に使おうとするとか。あと匠もやべーやつですし。つーかお前もトンネル通るんかい。
 きちんと家の間取りが考えられている芸の細かさも好きです。

小説作品

理想のお姉ちゃんメーカー(ととやす)


 弟をいじっていたお兄ちゃんがお姉ちゃんに改変されて、弟もお姉ちゃんによって妹に変えられてしまう話。
 頭でっかちな弟と頭わるわるなお兄ちゃんが対立し、弟は偶然見つけたアプリを使ってお兄ちゃんに仕返しを試みる。それによってお兄ちゃんはお姉ちゃんになってしまう。姿形だけでなく、口調や名前まで変えられて、弟の好みで下着まで変化させられる。
 これを読んで湧き上がってきた感情を無理やり日本語にするなら「最of高」ですね……。下に見ていた弟との立場逆転、好きかってに自分を変えられてしまう。たまらなくえっちですね。小説の初っ端からこんな素敵なものを突きつけられたら、このアンソロの一番下に埋まっている水戸湊さんは恥ずかしさで穴を掘って更に下に潜りたくなってしまいますよ。
 存在を改変されてからは自己認識まで「お姉ちゃん」に染まっていき、弟はお姉ちゃんに甘やかされながら(つぎは何をさせようかなぁ)なんて考えながら眠ってしまう。
 はいここ、強制改変系のお話を予習している人は分かりますね? 相手が隙を見せた瞬間は復讐返しタイミングです。
 とはいえ、お兄ちゃんはもう「弟のことが大好きなお姉ちゃん」に染まっているので、彼女自身は復讐なんて気持ちはありません。神様が用意したようなタイミングで現れた改変アプリを、神様が用意したようなタイミングで湧きだしたちょっとした好奇心で操作するだけです。それによって弟も女の子に変わってしまい、仕返しによって築き上げてきた優位性を失ってお姉ちゃんに可愛がられるだけの妹と化すのです。
 最終的にアプリが消えてしまい元に戻れなくなった『姉妹』は仲良く暮らしましたとさ。完全に女の子に堕ちたお姉ちゃんに対して妹には人格がそのまま残っているので羞恥心が最後まで消えないのが良いですね。インガオホー。
 初っ端で言うのは難ですが、ざっと一巡したうえで個人的にベストな小説作品はこれでした。仲の悪い二人が対立している状況を丁寧に描き出すことによって人格改編を伴う立場逆転というシチュエーションに不可欠な「こんなやつに好き勝手される」という屈辱がきっちり伝わってきます。ドロドロに悪意が煮詰まったものではなく「お兄ちゃんに仕返ししてやる!」くらいの可愛らしさなのが、逆にセーブの利かない欲望の恐ろしさに繋がっているようにも感じられました。
 上では挙げませんでしたが女体化後の自分を見るシーンもきちんと書かれていますし、普段小説は敬遠してしまうという方にもこれだけは読んで欲しい(そしてそのまま小説沼に嵌ってほしい)一作です。

桜吹雪の約束(あるべんと)

 空手部所属の屈強な男子高校生が小柄で巨乳の女の子に変えられて、幼馴染を頼ったら好き勝手されちゃう話。
 朝起きたら女の子になっちゃって、幼馴染の彼女に着せ替え人形にされて、不良に絡まれて返り討ちにしようとしたら全然ちからが出なくて、幼馴染に助けられて情けなさで泣き出してしまう。
 ドストレートな「あさおん」TS作品。女の子になって彼女に胸を揉まれたり着せ替え人形にされたり、女の子としての身体の華奢さを分からされたり、美味しいところが一通りそろっている。そしてあるべんとさんのこだわりの下着描写も当然完備。
 要素という視点での完成度の高さに加え、「上げて落とす」という物語の基本的な流れをきっちりと踏襲しているところも評価したい。彼女との甘いいちゃつきや可愛がりを差し込みつつも、ストーリーの根幹にあるのは「幼馴染を守るために強くなると誓ったが女体化でそれが崩れてしまい喪失感に打ちのめされる」という部分だ。――そして最後の一撃でとどめを刺す。
 成人向け描写こそないが、普段のあるべんとさんの作品に流れるダークさはここでもきっちりと発揮されている。特に今回は周囲の作品でダーク系の作品がないことでそれがより際立っているようにも感じられる。好き嫌いは分かれるだろうが、それは良いダーク作品の証でもあると言えるだろう。
 また、一度ネタバラシを喰らってからもう一度読み返すと、一つひとつのシーンにまた別の顔が見えてくるかもしれない。そういった意味でも楽しめる作品だ。

騎士と令嬢の入れ替わり(なつめぐ)

 階段を踏み外して転びそうなところを支えようとしたら二人とも転げ落ちちゃってその衝撃で入れ替わる話。
 オーソドックスな入れ替わり作品。ぼんやりと目を覚ましたら周囲の人たちの態度がいつもと違って、意識がはっきりしてくると自分が入れ替わっていることに気づく――というところが山場。騎士視点で、細かい描写から自分がお嬢様になっていることに気づくシーンが良いですね。
 そのあと、正体が露見しないように相手の前で相手を演じるというのもこのシチュエーションのおいしさだと思う。
 入れ替わった後のお嬢様が前向きにどんどん外堀を埋めてくるの好き。

星に願いを…(んごんご)

 突然女体化してしまった弟をめぐる兄と姉の争いを通して、TS娘×女の子、TS娘×男の子を描くお話。
 女体化してしまった弟から話を聞く権利をかけて争う兄と姉。はじめは姉が女の身体は女の方が知っている、と兄を説き伏せて部屋に連れ込んでいく。弟は姉に不本意ながら女の子になったと打ち明けるが、姉は「望んでなったんでしょ?」と自分の欲望を『妹』に押し付けて可愛がりまくる。弟は兄に助けを求めるが、兄の部屋に避難した弟を待っていたのは良くも悪くも男らしい対応で、「俺はお前を男だと思うぞ!一緒に風呂でも入るか!」と言われて弟は兄の部屋からも逃げ出してしまう。
 結局どちらも弟の真意を聞き出すことができず、反省した二人は弟に謝罪をして彼の話を聞きだすが、その瞬間……。というあらすじ。
 ビフォーアフターとしては若干弱い。弟の性格や外見の変化はそれほど顕著だとは描写されていないからだ。この作品の面白いところは、TS娘それ自体ではなく、それに対応する男女に主眼を置くことで「自身の変化」ではなく「周囲の変化」という旨味を書きだしているところだと思う。
 男にも女にもくっつけない中途半端な存在の引き起こす混乱を、思いもよらない手段で吹き飛ばすオチがだった、というのが一番に出た感想です。

いきなり地球を守ることになりました。(桜すず)

 ごく普通の一般人が、事故にあって正義のヒーロー戦隊(♀)に改造される話
 まず思うのは、色々と不思議な文体。フォントのせいもあるだろうか。散文的で、どこか古代ヒッタイトの粘土板の和訳を思い起こさせるものがあった。ふっと沸いてくる思考をそのままくみ取って置かれたような掴みどころのない文体だ。
 そこに言及したのは、その文体によって作品全体にどこか捉えどころのない雰囲気を纏わせているからだ。
 主人公はいつもの日常を送っていたが事故にあい、気づいたらベッドに寝かされて見知らぬ天井を見上げている。声が出ない。一方的に誰かが状況を説明してくる。事故にあったこと、戸籍上は死亡扱いになったこと、そして女性に改造されたこと――。全てが過去形で、主人公の意思が介在する余地もなくすでに終わったことなのだ。
 何もなくただ進んでいくだけの受動的な日常や、唐突に突きつけられた事実をそのまま受け止めるしかないという状況で、この簡素ともいえる文体は絶妙にマッチしている。
 内容云々より、まるで自分のことのようにすっと入ってくる不思議な文体こそが、この作品の魅力なのかもしれない。

TS!恐竜娘神父!(シア)

 内容をまとめるのが難しい……しかし伝わる人にはこの一言で伝わるだろう。「B級映画だこれ」(褒め言葉)
 なんかもう「きょ、恐竜娘……」「グワァーッ!」のところでダメでした。1990年代の洋画にありそうなガバガバ着ぐるみが襲い掛かってくるシーンが脳裏に再現されすぎる。そのあとに出てくるのチャイニーズニンジャマフィアってなんだよ。巨大恐竜ロボット(特許取得済み)ってなんだよ。幕間で唐突に恋愛いれるのやめーや。
 そんなツッコミ疲れの中で、恐竜娘へ変化とか同族化とかは普通に性癖だから困る。
 

NUMになったTenShiっ娘(カコイケ)

 職業がAIによって決まる未来で、トンデモ解釈によってシスター(姉妹ではない方)にされてしまう二人の高校生のお話。
NUNっていう単語は初めて知りました。
 強制変身ものですね。自分が望まないのに修道女にされるというシチュエーションはとてもいいです。未来では宗教の存在が薄れてシスターの意味も消失しかけ、妙な解釈によってなぜか歌って踊れるシスターが爆誕するという流れは……B級映画では、これ??(引きずってる)
 強制変身から徐々に染まっていってしまう様式美をきちんと書いてくれているところがポイント高いです。

俺は替え玉アイドル!?(リーフ)

 自分と同じ姿に変身できるコンパクトを持った妹によって、その兄が代理でアイドル活動する話。女児向けでも戦わない方の魔法少女みたいな流れ。
さらっと流されたが他人の姿になると味覚が変わる、と言うのは面白い発想だと思う。
 妹の代理でアイドル活動だけでなく小学校にまで通う話があったり、お洒落して出かけたりプールに行ったりと内容は盛りだくさん。他者変身シチュなので、うっかり本人と鉢合わせというのもありますよ!
 ……と、ここまでは読みながらリアルタイムで打ち込んでいる。しかしここから先は一読し終わったあとの感想だ。
 面白みを感じた部分は、シチュエーションそれ自体ではなく、変身していることが露見したことでやがて兄が消えてしまうという設定だ。徐々に薄くなる身体の描写は、最後どうなってしまうのかと物語のけん引力として読者をひきつける。結論として言うならば、兄は消えてしまうわけだが……きちんときれいなハッピーエンドが待っている。
 自身が望んでの他者変身シチュエーションは個人的には必ずしも食指が動くものではないが、それとは別にエンターテイメントとして張られた緊張感は興味深いものだった。どんなものであれ、気になれば読者は先を読む気力がいくらでも沸いてくる。そういう牽引力となる設定がきちんと展開に活かされていたので最後まで読み切ることができた。
 
 途中で天河なる人物が唐突に出てきたのは母親の星美の間違いなのだろうか……途中で設定を変えての直し忘れ? マネージャーは天津さんで似た名前だけど、そのシーンで出てくるには不自然ですしね。いちおう何度もその前の文章を読み返したつもりですけれど見つけられませんでした。
 あと、さすがに文字が細かくて目が疲れました。老眼とは思いたくない……。ページ数の都合による苦肉の策なのかもしれませんし、実際に紙面を手に取らないと分からないところもあるので仕方ない部分はありますが、カギカッコ部分の字下げも相まって内容とは別のところで読むことに負荷がかかるのはあまりよろしくないですね。
 
 ともあれ、根底を為すストーリーはきちんと起承転結としての纏まりや起伏があり、そこにシチュエーションを乗せることができているので、他者変身好きの人は一読をお勧めします。

正義の味方(N.D)

 うおぉぉぉぉおぉぉ!スライム乗っ取りだ!!!!やってくれた!やってくれたよN.Dさんが!
 一応確認しておきますけど全年齢ですからね!全年齢ですよこのアンソロ!そこでがっつりと乗っ取りものを書いてくれました!!!
 ストーリーとしては組織を裏切った少女型怪人を追い詰める悪の組織の幹部(少女型)、両者のスペック差により少女型怪人はにべもなく破壊されてしまうが、残骸に近づいた幹部はそこから溢れ出した粘液によって身体を奪われてしまう、という話。
 乗っ取りです。まごうことなき乗っ取りです。いちおう粘液側に正義の心があるとか書いてありますけれど、それでもやってることは乗っ取りです。奪った身体を着せ返して鏡の前でニヤニヤしているのは完全に成人向け乗っ取りシチュ該当です。
 絶妙にマイナー性癖なので「細かい描写だなぁ」と普通の人は思うかもしれませんが、そもそも乗っ取り時の描写がもう完全に成人向けのそれなんですよ。
 乗っ取り後は正義の魔法少女としての装備を纏い、学園への編入を決める――というところで終わりますが、悪の組織の女幹部の身体で魔法少女をするっているのは尊厳破壊みもあって良いですね……。『中の人』は一応正義の人格らしいですが性癖がやばいので学園生活が楽しみです。
 目次の時点で真っ先にここに来る人も多いかもしれませんが、一応書いておきます。
 良質な乗っ取り作品だぞ!読め!

魔石の伝説(Jkank)

 偉い人は言いました。変身過程をきちんと書き込んでくれる作品は良い作品だと。つまり、これは良い作品です。
 古代の女王の墓を暴いた男たちが、女王とその部下に変身してしまう話。
 匠のコメント部分だけだと1キャラクターしか書かれていなかったので、相方が古代の女王に変身した時は「こっち側かぁ」という思いもありましたが、その後に主人公の変身があったのは嬉しいサプライズ。肉体的な変化描写はもちろんですが、女王の思想に否定的だった主人公が変身によって忠実な部下にされてしまうのもとても美味しいシチュエーションです。
 あと、ここまで挿絵にはあえて言及をしなかったのですが、この作品についてはあるふれっ鳥さんのイラストが変身過程の文章と相まって想像力を掻き立ててくれているので、やはり挿絵の力と言うのは大きいなぁと感じます。

『引きこもりのいる家』(水戸湊)

 リフォーム番組の制作者である主人公が偶然訪れたのは、高校時代の友人の家。その家が抱えるお悩みは「息子が女体化して引きこもっている」というものだった。主人公は干渉していいものか迷うが、無慈悲なディレクターの指示で女体化した友人を救うために共同生活をすることになる。という話。
 
 自作なので、裏話でも。
 まず、上の方のどこかでも言いましたけど、拙者は某番組を見たことが無いんですよね。そんなわけでモチーフとして用いることはせず、単なる感嘆符として使う想定でプロットを練っていました。しかし全く固まらず、無為に月日だけが過ぎ、焦燥感は高まるばかり。仕事終わりにカフェでchoromebookを広げて延々と文字を打っては消しての繰り返し。
 挙句の果てにあるべんとさんにアポなしDMで助言を乞うことまでしました。うーんこの恥知らず。出せない方が恥やろの精神で生きている。
そんなこんなで締め切り二日前まできても何もできていない状況。追い詰められた拙者はニコニコ動画で某番組のパロディMMDをいくつか試聴して番組の流れを把握、そこにいくつかあった構想のうち「引きこもりTS娘」というワードをぶち込んでなんとか作品に仕上げました。
 そんな制作過程もあって、文章のペース配分が滅茶苦茶になっています。本来なら主人公と友人が女体化によって断絶した関係を修復することがメインになるはずなのに、その過程はほとんど丸々カット。一番書きたかった「TS娘が可哀そうなシーン」だけはがっつりかけたのでそこだけは満足していますが、他は絶望的に尺が足りず最後に全部詰め込む形になってしまったのが心残りです。
 せめてTSと引きこもり、リフォームに関してもう少し関連付けをしたかったのですが、時間は止まってくれないので致し方なし。
T S的な良さみを解説するのであれば、「焦り、悩み、取り乱して自己の現状を嘆いたTS娘が、すげーぞんざいに女であることを肯定的に押し付けられてしまう尊厳破壊」です。変わり果ててただの可愛い女の子になってしまった友人ちゃん可哀そう可愛い。

感想あとがき

 以上です。完全に自分が感じたままのことを書いているのでそこまで参考になるかは分かりませんが、メロンブックスでの委託販売がありますのでよろしければお手に取ってください。多分これ再販ないんじゃないかなぁ……デジタル版もないし、興味あるなら買っておいた方がいいのかも。一応、作者によっては無料公開があるかもしれません。私はしませんけど。
 ちなみに販売によって得られた売り上げはドン引きするくらいのハイテンションな主催によって募金にぶち込まれるそうです(あとがきより)。
 自腹で食う焼肉は上手いでゲスからねぇ……。


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