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忘杯

祝杯というが、僕には祝うものなど何もない。
その代わりと言ってはなんだが、忘れたいことは山ほどある。
そんな忘れたいことの数々を昇華するために、忘杯をあげることにした。
今だけは、この一瞬だけは、全てを忘れることができるように。

こんな僕のくだらない話を酒のつまみに、
これを読むどこかの誰かには、幸福な晩酌を楽しんでほしい。

(※この記事は前述の通り酒を飲みながら書いている記事なので、
所々おかしな点もあるかもしれないが、とある人間の一面だと思ってご容赦願いたい。)

僕が忘れたいもの。
これまでの全ての何もかも。

話は飛ぶが、大学4年生で中退した。
学費は安くない私立、一人暮らしもしていた。
1年の休学を経て復学したものの、卒業まで行き着く体力も気力も僕にはなかった。

完璧主義の僕は、1年の段階から単位取得の計画を立てていた。
順調に単位を取り、卒業と就職を視野に入れ始めた大学3年の秋、
僕は人生のブレーキを踏んだ。
ずべてを止めたかった。休みたかった。
授業も、バイトも、人生も、何もかも。

このタイミングは、それまでは形を成していなかった感情が、はっきりと顔を見せた時でもあった。
俗に希死念慮と言われる感情が、漠然と僕の中に存在していたその感情が、はっきりと顔を見せた時期だった。

結局、卒業まで残り3授業、僕は大学を去った。
「辞めたい」とそう両親に伝えるまで、他に道はないのかと、ひとり考えを巡らせた。
勿体無いという人もいた。
「もう少し頑張れば。」人からも言われたし、自分でも思っていた。
その「もう少し」が、
僕を縛り続けていた鎖であり、僕が背負っていた重りだった。

それから数年、いまだに彼は僕の隣に居座っている。
きっとこれからも、居座り続けるだろう。
「死にたい、消えてしまいたい」という胸を張っては言えない感情が。

何もかも、忘れてしまいたい。

何かに憧れ、ただがむしゃらに進んだ過去を。
この生き方が自分らしさであると、過信し行き急いだ10代を。
明日に怯え、不安を抱き締めて眠る毎日を。
抱くことができなくなった情熱や、掲げることが困難になった夢を。
望むことに怖さを覚えた愛にまつわる全てを。
目が覚めてから眠りにつくまで過ごす、この地獄を。
明日になれば、この壊れきった心にまた降り注ぐ雨を。
何にも期待できなくなったこの心を。
僕にまつわる全てを、忘れてしまいたい。

経済的に苦しいわけではない。
人並みには、社会的な能力はあると思っている。
生きていくのに、難のある性格ではない。
人から見れば、絶望に見える要素などひとつもない。

何が、今の僕の絶望を作っているのだろうか。
僕は、何に怯えているのだろうか。
果たして僕は、この世界に幸福を見つけ出すことはできるのだろうか。

今日だけは、優しい夢が見たい。

僕が抱く、可愛げのないこの全ての感情を包み込んでくれるような、
深くて大きく温かな、優しい夢が見たい。
ただ、今夜だけは。

知っていてほしい。
幸福だと思っていることが、人によっては不幸であるかもしれないということ。
幸福も不幸も、人とは比べることなどできないということ。
生きたいと願う人間が、全てではないことを。

それでも僕は、生きていくしかない。
遠回りをしながら、近道を見つけながら、
傷つき合いながら、傷つけ合いながら、
悩み、苦しみ、絶望に苛まれながら。

この世界に別れを告げる勇気など、残念ながら持ち合わせていない。

僕だけにしか見えないこの色のない世界を、
ただひとり歩み続けるしかない。

いつか終わる、この日まで。





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