センチメートルの隙間


17時26分。

バスの中は閑散としている。ついこの間までは帰宅ラッシュで混んでいたが、緊急事態宣言が出たからなのか、人がめっきりと減った。座っている近くの窓が半分くらい開いていて、ぴゅうぴゅうつめたい風が顔にあたる。おでこが痛い。これからラジオ収録へむかう。

ラジオ収録。言葉の響きでなんだかよさそうに聞こえる。売れていないアーティストの、とてもちいさい収録でラジオと呼べるのかも、実際はわからない。退屈だな。横目で流れてく街を眺める。バスでも電車でも、景色が速くみえたり遅くみえたりするこの瞬間がすきだ。この日常と無関係に思えるような、あの瞬間。

22時47分。

最終バス。すこし眠たい。ひとりになった途端にどっと疲れが押し寄せる。今日の収録はあまりいいとは言えない雰囲気で、どこか微妙な空気で終わった。人間ってむずかしい。言葉ってむずかしい。はぁ。なんて思っていると、男から「お腹が空いた」とLINEが飛んできた。家には食材があまりなかったような気がする。何をつくろうか、ぼうっと考えていたらどうやら彼が雑炊をつくってくれるらしい。できる男だ。はやく帰って温かい雑炊を食べながら、ゆっくり過ごそう。

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