静謐な水辺


23時27分。

男が腕のなかで眠っている。ホテルのベッドは広くてきもちがいい。知らないジャズがちいさいヴォリュウムで流れおり、暖房が効いた空間は快適だ。

今日は記念日の祝いで、男と夕方から飲みにでかけた。家族でやっている海鮮がメインの居酒屋で、常連客が多い下町の店だ。最初はビールで乾杯。そのあと日本酒であん肝や白子ポン酢、ぶりしゃぶ鍋と舞茸の天ぷらをつつく。カウンターの下で、ときどき手をつなぎながら。

いい具合に酔いがまわってきたところで、ふたりで目を合わせる。このあと、どこへ行こうか。一瞬で理解する。こういう瞬間はいつだってくすぐったいけど楽しい。愛おしいね。

私も今から眠ろうと思う。
起きてからまた何度も抱き合うだろう。ちょっとお腹がすいてきた。あとでカップラーメンでもたべようか。もうずっと、このままでいい。このままがいい。さようなら。さようなら。またあした。

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