嫉妬ほど意地汚く愛おしい物はない
免罪符を手にした瞬間理性的な人間もとち狂う。
今日はとてつもない不幸があったから、自分は愚かな人間だから、そう思えば意図もかんたんに理性が吹っ飛ぶ。
コロナ規制も収まりかかる今日のこの頃、彼氏は同僚と数年ぶりの飲み会に出掛けるらしい。男所帯のチームで飲みに行くともなればかわいい女の子のいる夜の店にだって狩りだすことになるだろう。
どこの馬の骨かもわからない女のガルバに行かれるくらいならと、大親友アオイの勤めるガルバを紹介した。カワイイ系、セクシー系、ロリ系の娘も揃っているよと太鼓判を押した。女の子たちの中でも、アオイは飛びぬけて可愛く、胸も大きく、男の扱いがバツグンに上手い。
気遣い上手な彼は一軒目で潰れ駆けている同僚とのツーショットを送ってくれた。
『ガルバ着いたけど…友達のアオイちゃん?すぐわかったわ。』
LINEの通知音が鳴る。
彼曰く、ガルバに入った瞬間にアオイを一瞬で認識したらしい。というのも前述したとおり、アオイは飛びぬけてかわいい。銀座のニューキャバでも通用する顔面・スタイル・愛嬌が何人もの男性を虜にする生まれながらのセンス。地味な私に持っていないものをすべてもっていた。
不安がジワジワと押し寄せてきた。落ち着きたく、ベランダに出てタバコに火をつける。アオイに勝てる自分の魅力が見つからない。彼氏の好意を一時でも奪われるのが我慢できなかった。今何を話しているんだろう。アフターに行くのか。連絡先は交換したのか。そんなことを考えていると何分も経ったのだろうか、中指を火傷した。ベランダに落ちた灰がこちらを見つめている。
自分が勧めておいたガルバに素直に向かった彼氏を責めるLINEを送ることもできずに独り悶々としていた。嫉妬に狂った私がとった行動は、到底友達に対するものではなかった。
仲の良い私にだけ打ち明けてくれた秘密をいとも簡単に彼氏にLINEした。「アオイちゃん先月中絶したばっかりなのに、もう店に出てるなんてメンタル強い~。優しいドリンクだけ出してあげてね。」
酔いのまわった彼氏は同僚とアオイちゃん、そして他のキャストのいる前でその話を広げたらしい。アオイの青ざめた表情がそらに浮かぶ。
『生活苦しいよね。しんどい中、働いているのは本当に偉いよ。ドリンクも無理せず飲んでね。ノンアルにする?』
アオイが同僚キャストにもひた隠しにしていた秘密はいとも簡単に暴かれた。初見の客。しかも友人だと思っていた私の彼氏の一言で。アオイが一瞬にして真っ青になったのを見て、彼氏もしまったと思ったが遅かった。時間を戻せるような数奇な人生はノンフィクションにしかない。それからは中絶の話題をバックヤードに仕舞うように他の話にシフトチェンジしたが、彼が店を出てからアオイが落ち込んだことは想像にたやすい。
結局、彼氏は終電前に出来上がった状態になったのにも関わらず、大好物のシュークリームを買って来てくれた。泥酔した彼は、コンビニの袋をこちらに渡すとポカリを飲んで直ぐに寝てしまった。甘いはずのシュークリームは甘くなかった。
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