居酒屋

深夜に、行く宛もなく居酒屋を探した

どこも真っ暗な中で、一軒だけ灯りがついていた
廃墟のような見た目だったので躊躇したが、他に開いているところがないので仕方なく様子を見に行った

のれんを潜ろうとすると、とてもカビ臭い
カーテンのかかった座敷から人の声は聞こえるが、それ以外に客はいなさそうだった
店内は薄暗く、衛生管理もあまり行き届いていなさそうな汚さだった

やっぱり帰ろうかなと思って出口に戻ろうとしたら、店員の休憩部屋だろうか、カウンターの向こうの和室に人が見えた

知らないおばあちゃんが横たわっていた

毛布にくるまり、顔だけを出して、異様な咳をしていた
もっと異様だったのは、毛布の足の方の余りが体側に折り込まれていたのだが、毛布に隠れた体の全長が、明らかに短く見えるのだ
足がない短さだった、たぶん

焦点の合わない目を見開き、咳をしているおばあちゃんは怖かった
老人ホームや病院でよく耳にして心配になる咳の仕方だ

よく見るとおばあちゃんの横に紙が置いてあった
「おばあちゃんは元気です、心配しなくても大丈夫です。たまに一緒に海に行って、話は一応聞いています。」
よく分からないところもあるが、遠回しに「手は出すな」と言っているようだ

私は結局のところ、その居酒屋を後にした
異様にカビ臭かったからだ

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